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パチュリー あだ名:パッチェさん 加入場所:Stage40 基本ステータス:HP60、RP140 打撃 本で叩く。打属性。 リーチがあるわけでもなく、威力があるわけでもなく、連射が効くわけでもない。 射撃 通常射撃は水、冷気属性の放水。敵・壁は共に貫通しない。 微妙に放物線を描くばら撒きで、地形や相手次第で使いにくいことも。 上射撃は風属性の竜巻3WAY。ロックマン2のエアーシューター。 敵・壁を共に貫通する。射程は長めだが有限。 下射撃は熱、炎属性の火炎弾7WAY。時計回りに広がり、壁を貫通する。敵に触れると炸裂。 密着撃ちすると7発同時ヒットで高火力。射程無限。 チャージアタック サマーレッド!大チルの天敵である。溜め時間で弾速が違う。 能力 魔法耐性! 打撃以外の全耐性UP 総評 案の定、足が最も遅い。距離をとって戦うのが得意だが物理に弱い。 ボスの体当たりとか致命的。避けて逃げて離れるか、他のキャラに代わってもらおう。 上空から一方的に攻撃されがちなボス戦でも、撃ち合いの勝負が可能。 三姉妹戦にも適性があり、いろいろ便利。楽にクリアしたい場合の強化対象候補。
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パチュリー14 うpろだ1408 ある日の紅魔館の一室で、俺はメイド長と一緒にいた。 「しかしまたなんでこんなものを」 「お嬢様たちのおやつに作ったのよ」 目の前には小鉢に入れられたマロングラッセが数個。 「それを何で使用人が?」 「さあ、なんででしょう。何でだと思う?」 軽いクイズを出され、目の前にあるものをまじまじと見つめる。 小鉢の中は彩り豊かで、形も凹んでいたり穴が開いていたりと様々だ。 「ああ、不出来なのはお出しできないからですか」 「そういうこと。お嬢様や妹様のおやつになれるのは綺麗なものだけよ」 言いながら咲夜さんがフォークを渡してくる。 「後は味見と毒見ね」 お嬢様に毒なんて効かないんだけど、と言って咲夜さんは笑う。 それに釣られて俺も笑う。毒を混ぜたことがあるのかと戦々恐々としながら。 「いい感じに甘い……いやだいぶ甘い」 「少しシロップが濃かったのかしら?」 口に放り込むとパリと言う音と一緒に、栗の外の糖が割れる。 外の砂糖と共に栗の甘さも口に溶け出し、紅茶がないと少しつらい。 「まあ、これくらいなら許容範囲でしょ。お嬢様方は甘いもの好きだし」 そう言いながら咲夜さんは紅茶を口に含む。 すぐに口に含むあたり、やはり相当甘いと感じたのかも知れない。 「咲夜さーん、頼まれていた本持ってきましたー」 「ありがとう。そこのテーブルにでも置いておいて」 館内のことと図書館のことで多少話し合っていると、小悪魔がやってきた。 数冊の革表紙の本をテーブルに置くとこちらにさらに近寄ってくる。 「おいしそうなの食べてますねえ」 「心配しないでも後でパチュリー様の分と一緒に持っていかせるわよ」 どうやら関心があったのは今日のおやつだったようで、自分の分もあると判ると歓声を上げている。 「お味はどうなんです?」 小悪魔が期待するような目でこちらを見る。 咲夜さんは我関せずといった体でやはりこちらを見ている。 ため息をつきながら小悪魔の口の中に栗をひとつ放り込む。 すると満面の笑みを浮かべながら小悪魔はそれを咀嚼し、口直しに俺の紅茶を少し飲むと礼を言って出ていった。 「あなたも大変ね」 こちらもため息混じりに咲夜さんが言う。 俺は何も言わずに紅茶を口に流し込んだ。 「パチュリー様、三時の紅茶とお茶受けです」 図書館に紅茶とお茶菓子を運ぶのは日々の日課だ。 妖精メイドが粗相をしては面倒だし、メイド長はお嬢様方の世話をしているのだから、当然とも言える。 「今日のお菓子はマロングラッセです」 テーブルにポットなどを並べながら言う。 普段なら最低限本から目を離しこちらに目をやるのだが、今日に限ってはぷいと向こうを向いたままだ。 それを特に気にせず砂糖壷を掴み何杯入れるかを聞くが、やはり返事は無い。 「パチュリー様、どうしました?」 返事は無い。どうにも機嫌が悪いようだ。 「なあ、今日何かあった? 白黒の来襲とか」 「いいえ、今日は誰も来客はありません」 不満の原因を探るべく、そこらを歩いていた小悪魔を捕まえて尋ねる。 「じゃあ、何か今日のおやつでパチュリー様に言った?」 そう問いかけるとすぐに返事が返ってきた。 「ええ、ひとつ食べさせてもらいましたが、甘くておいしかったですよ、って」 言動に何も不審な点は見当たらない。 「それ以外には?」 「特に何も。あとは咲夜さんの部屋に行ったらあなたが居た、ってことくらいでしょうか」 「確かに特に何も無いなあ。なら、不満の原因は別のところに……」 ここでハタと気付く。さっき小悪魔はなんて言っていた? 「もらったじゃなくて、食べさせてもらった?」 「ええ、そうです」 小悪魔が小悪魔らしい笑みを浮かべる。 「それで機嫌が悪いのか」 「パチュリー様にもおんなじことをして差し上げないと、きっと機嫌は直らないでしょうね」 「だろうね」 頭を抱えながら振り返るとパチュリーが見ていた。 「パチュリー様どうぞ」 フォークに一粒栗を突き刺し、口の前に差し出す。 しかし一瞥しただけで、またそっぽを向いてしまう 「小悪魔と同じようにしてくれないと食べないわ」 パチュリーが小さな声出つぶやく。 小悪魔の方へ向き直ると、やはり笑いながらこっちを見ていた。 フォークを置いて小悪魔に近寄ると、小悪魔は抑えてと言う風なジェスチャーをする。 「パチュリー様になんて言ったんだ?」 声を押さえ気味に、つまりは怒りを隠すように言う。 「食べさせてもらったって言っただけですよ」 小悪魔は笑いながら答える。 「じゃあ、どういう風に食べさせてもらったって言ったんだ?」 また尋ねる。小悪魔はやはり笑いながら言う。 「聞きたいですか?」 その笑みからおよそどう言ったのかがわかる。 「いや、やっぱいいや」 「指でつまんで、優しく口の中に入れてもらって、指についた砂糖は綺麗に舐めて……」 「だからいいって言ってるだろうに」 全く口移しといわなかっただけまだましとはいえ、この悪戯娘には本当に困る。 「この悪魔め」 「いいえ、小悪魔です」 小悪魔は平然とした顔で返してきた。 「ほら、早く戻らないとパチュリー様怒っていますよ」 振り返ると、こちらを凝視しているパチュリーと目が合う。 彼女は目を逸らそうともせず、ただこちらを睨め付けていた。 「パチュリー様お口開けてください」 栗を一粒つかんで、子供をあやすように言うと、パチュリーは少し見た後、口を開けた。 開けた口の中に、恐る恐るといった体で栗を入れていく。 何分少ししか口を開けないし、一粒入るとも思えないので、適当なところで噛み切らせないと息を詰まらせてしまうだろう。 ティーカップを見ると量も色も変わっているので、こちらには手をつけているらしい。 二口目で一粒全部を食べ終えると、パチュリーはカップに手を伸ばし一口二口紅茶を飲んだ。 その間に指を拭いてしまいたかったのだが、パチュリーの空いたほうの手で抑えられているのでそれが出来ない。 振り解こうと思えば、それは容易く出来るのだがそうしてしまうわけにはいかなかろう。 紅茶を飲み終えると、パチュリーは親指と人差し指を順繰りに口に含み、指についた砂糖を舐めとっていった。 こそばゆい上に噛まれるかも判らないので怖いのだが、言っても止めてはくれないだろう。これは意地のようなものだ。 考え事をしていると、袖を引っ張られ次の催促をされた。 テーブルの上においた腕を動かし二粒目を摘みあげようとする。 とここで気付いた。卓の上に肘を乗せるのは、いかにも行儀が悪い。 皿に伸ばした手を引っ込め、椅子から立ち上がる。 「こっちの方が食べさせやすい」 顔に疑問符を浮かべるパチュリーを持ち上げると、彼女の座っていた椅子に座る。 抱えていたパチュリーを膝の上に座らせると、二粒目を手にとり口元に近づけていく。 空いた左手で頭を撫でてやると、パチュリーは気持ちよさそうに目を細めた。 半分をかじると、パチュリーが小声で言ってきた。 「今日の仕事はもう終わりにしていいわ。だからパチェって呼んで」 早上がりは度々あったが、今日は特に早い。 「はいな、パチェ。紅茶のお代わりは?」 「いいえ、まだいいわ」 二粒目の残りを口中においてやり、言う。 仕事が終わった途端にフランクになるのは仕方が無い。こういう性分だ。 「それよりあなたも一つどう?」 「いや、俺はさっき味見したしいいよ」 「そう? これもおいしいわよ」 咲夜のことだから歪んだのしか出していないでしょうと、言いながら一粒手にとる。 それを口に半分咥え、差し出すように顔をこちらに向けて突き出した。 顔を真っ赤にしている様をじっと見てやろうかという悪戯心もでたが、やめておく。 せっかく直してくれた機嫌をこんなことで損ね、天国を失うわけにはいかない。 ゆっくりパチェの口に顔を近づけ、栗を攫う振りをしてパチェの舌を攫った。 ちなみに妙をした小悪魔の分は没収しようとしたが、いつの間にかすべて平らげられていた。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1491 「ふぅ、此処の冬は寒いなぁ」 真っ暗な廊下を蝋燭の明かりを頼りに歩いた 外は雪が降っているようだ、暗いので良くわからないが 吐く息が白くなる、窓は風でがたがたと音を立てている 「ん?」 咳き込むような、声のような 少し先の部屋から明かりが漏れていた 部屋の中をのぞいてみる 誰も居ない? いや、背中を丸めて小さくなっている、誰かが 「大丈夫ですか?」 少女は声に振り向き、辛そうな顔を見せた 「貴方は確か・・・」 「○○です、先週から此処でお世話になってます」 少女、たしかパチュリーとか言う魔女の人だったと思う 「パチュリー様、苦しそうですが」 「ただの喘息よ、寒いとね」 喘息か、なるほど 俺はパチュリー様にしばし待つように言って、厨房に向かった 「お待たせしました」 お盆に魔法瓶やら何やらのせて部屋に戻った 彼女は相変わらず苦しそうだ 「それは?」 「お茶です、あったかいの」 「ありがと・・・」 「沢山飲んでください、その方が良い、それと・・・」 俺は自分のポケットからあるものを取り出した 「・・・なにそれ?」 「喘息の吸入器ですよ、此処をこうすると―」 彼はそれから背中さすったり新しくお茶を入れてくれたりと、私を看病してくれた 「・・・ありがと、だいぶ良いわ」 「みたいですね・・・じゃあ俺はこれ片付けて見回りに戻ります」 そういって部屋を出ようとする彼 私はそれを呼び止めた 「○○・・・ありがとう、助かったわ」 「・・・苦しいときは何時でも呼んでください、少しなら力になれるかもしれません」 彼は、一応置いて行きます、と言ってさっきの薬を置いていった 「・・・○○か」 その晩、私はゆっくりと眠る事ができたらしい、気がついたらお昼過ぎだった しかもちょうど起きたときに、彼が居たのだ 「あ、おはようございます」 「○○?おはよう・・・」 何で彼がいるのだろう、まずその疑問が頭に浮かんだ 「いえ、心配だったので何度か見に来たんですが、ぐっすり眠ってらっしゃったので安心しました」 そう答える彼、つまり眠ってないのでは?しかし疲れた様子もなく、微笑んでいた 「あ、パチュリー様、おはようございます」 廊下を歩いていると咲夜に会った 「ご機嫌ですねパチュリー様」 自分でも良くわかる、今私は機嫌がいい 「ええ、好い事があったの」 「それは良かったですね・・・それで何があったんですか?」 「秘密よ・・・それより、レミィは部屋にいる?」 「はい、いま紅茶をお持ちしたのでまだいらっしゃるかと」 咲夜に礼を言って、レミィの部屋まで足を運ぶ事にした 部屋の前に立ったとき、ちょうどドアが開き、レミィが出てきた 「あ、パチュりー、ちょうど良かったわ、今からお茶するんだけど一人じゃ寂しいから、付き合って」 「良いわ、ちょうど貴女に話があったの」 それで話は?彼女の視線がそういっていた レミィはおそらく茶会に相応しい暇を潰せる話を求めたのだろうが 残念ながら渡しにその手の話のボキャブラリーは存在しない 「○○っているじゃない」 「ええ、いるけど・・・彼が何か?」 「彼、私に頂戴」 レミィは少しだけ考えていた そして 「いいけど・・・頂戴って言われると急に惜しくなるわね」 「ふふ、そんなものよ、なくなるからこそ愛おしいんじゃない」 「・・・それで、なんで彼?」 当然の質問だ、昨日の晩まで彼とは話した事などなかった そう、一目ぼれだ いやちょっと違う、だが、弱っているときは、やさしさが沁みるのだ 「気に入ったのよ、彼が」 レミィは何か納得したようで ニヤニヤしながら紅茶を飲んでいた 「なによ、気味悪いわね」 「いや、だって貴女が・・・一個人を、しかもただの人間を気に入るなんて、珍しい」 私だって元人間だ、そういう感情を持ったりもする だがレミィは違う、彼女は生まれついての、化け物なのだ、しかし・・・ さて、お茶もなくなったし、図書館に戻ろうか 「それじゃあレミィ、私は図書館に行くわ」 「そう、それじゃあ○○には私から伝えておくわ」 「レミィ、貴女にもいつか・・・素敵な出会いがあるわよ」 「なに、それわけ解んないわ」 「だってここは幻想郷よ?何が起こっても不思議はないわ」 だって私でさえ、こんな少女のような恋心を持つぐらいだ 「ふぅん・・・じゃあそれを楽しみにしてるわ」 私はそれを聞いて、扉を閉じた 私は彼をもっと好きになりたい そして彼には私を好きになってほしい まぁあってまだ二日だ、あまりあせるといい結果は出ない、魔術と同じだ とりあえず、図書館に行って恋愛について書かれた本でも探してみるとしよう ─────────────────────────────────────────────────────────── 消えない虹(新ろだ126) 消えない虹 一話 「レミィ、しばらく紅魔館を留守にするよ」 七曜の魔女。 知識と日陰の少女。 動かない大図書館。 パチュリー・ノーレッジは親友に対して、こう切り出した。 秋の永き夜。 陽もとっぷりと暮れ落ちて、吹きわたる風の冷たさが身に染みてくるころのこと。 ようやく起き出した紅魔館の主人、レミリア・スカーレットは友人の管理する(というか、住み着いている)大図書館へと顔を出していた。図書館とは言うものの、書庫にある本はまだまだ未整理のまま、乱雑に積み重ねられているだけだ。およそ百年という歳月を経て無尽蔵に集められた文物と、その時間に付随する、重苦しささえ感じられる埃と黴の匂いが支配するところ。気質的に夜と闇に属すレミリアでさえ、あまり寄りつくことはない。 しかし、今日はその珍しい訪問の日であったようだ。 「留守? どこか用事でもあるの?」 唐突なパチュリーの物言いに、レミリアは幼い眉を顰めながら問い返す。 当然の疑問だろう。 出不精という言葉で済まされるものか、パチュリーは十日くらい平気で図書館に籠りきりになる。さらには何か月単位で紅魔館の外に出ないこともざら、らしいと聞く。 会話を交わしながらも、吸血鬼の親友は長机に向って書き物をしたまま。厚い革表紙に幾つもの紋様が刻まれている。いわゆる魔導書の類らしい。そんなことを気にする様子もなく、レミリアは書物に埋もれた机の反対側に座る。彼女用の椅子は常備されていて、脚は高く背は低い。普通のものでは顔半分が机の上に出ないためだ。 待ち構えていたかのように差し出されるティーカップとソーサー。 瀟洒な従者はいつどんなときも、主の要望に応えることができる。次の瞬間には時を操りどこかへ居なくなっているが。 一呼吸。 紅色の液体を口に含んだところで、パチュリーが再び口を開く。 「用事……まあ、そんなとこかな」 「曖昧な答え方」 「そうかな? 外界に行ってみようかと思って」 この台詞に、聞いていた者たちは驚きを隠せない。呆けたような表情のまま、レミリアは固まっている。どうやらカリスマというものは何処かに忘れて来たらしい。 「驚いた。理由を聞いてもいい?」 ここ百年は友人やっている彼女が言うのだから、相当のことなのだろう。 「探したいものがあるのよ」 内容は曖昧に、しかしきっぱりと言い切った。羽ペンを滑らせていた手を止め、運命を見通すと言われる友人の瞳を見つめている。確かに答えは曖昧。曖昧だったが、魔術の詠唱をしているときのような確信と、弾幕を避けているときのような決断力を内包した言葉。深紅と紫紺の瞳が交錯している。 その間ほんの数秒の出来事だ。 先に視線を外したのは、驚いたことにレミリアだった。 二口目の紅茶を飲み込んだところで、 「行ってくるといい。ま、わざわざ私に許可なんて取らなくても良かったのに」 と、苦笑混じりで言う。 「ありがとう、レミィ」 反対にパチュリーは、明らかに緊張が解けている。どうやら彼女の中では大事なことだったらしい。しかし、目的をはぐらかしたことから、友人にも腹のうちを見せないつもりか。外界に行って何を探すつもりなのか、とんと見当がつかなかった。 「それで……外界に行くってのは、八雲紫がはじめた外界ツアーで行くんでしょ?」 「そういうことになるね」 いつのまにかパチュリーの手には新聞があった。 題字は『文々。新聞』だ。そこにはレミリアの言う、外界ツアーの記事が載っている。 掻い摘んで説明すると、神無月に神様たちが出雲大社へと里帰りする。そのとき幻想郷から出るのに、八雲紫の隙間を通じて行く。その隙間をほかの人妖たちにも開放して、一月だけの外界バカンスを楽しもう――というものだ。 「ってことは、外界に詳しい人物が必要じゃないの?」 そうだった。 流石に外の世界の常識を知らない奴らを、そのまま放りだすのは心もとない。何をやらかすか予想がつかないし。だから、現界に詳しい――外界から来た人間を付き添いとして連れて行かねばならないという条件があるのだ。 迷い人として幻想郷を訪れ、定住してしまった人間はそこそこ数がいる。大抵の者は、半人半獣のハクタク先生に斡旋されて、人里にて能力に似合った仕事についている。しかし、他に縁があって、博麗神社やら白玉楼やら永遠亭やら守矢神社やら地霊殿やらで暮らしている者も、僅かながら存在するのだ。例えばここ、紅魔館にも。 「ええ。だから、○○を連れていくわ」 パチュリーの隣でここ数日間に整理した蔵書の帳簿をつけていた、俺、こと○○は、紅魔館の大図書館にて司書と雑用を兼ねて、住み込みで働かせてもらっている。 「俺……ですか、パチュリーさん」 「あなたしかいないじゃない。外の世界に通じている人間なんて」 「確かにそうだけど」 いまの会話からもわかる通り、俺は外界の、生粋の人間だ。年齢は……まあ、二十歳前後とでもしておく。ここらに住んでいる連中から比べると、何の能力もない一般ピープルである。それで良かったとも思うが。どうして能力を持っている奴らは、こうも曲者揃いなのか。 ちょうど小悪魔さんが紅茶を運んできたので、俺たちも手を休めることにする。 「お疲れさまなのさ」 「ありがとう、小悪魔さん」 礼を言いつつ、一口目を啜る。琥珀色の液体が揺らめきならが口の中へ流れ込んでくる。ぴりりと引き締まった渋みを香りとともに楽しむ。埃っぽい仕事柄、時々の紅茶休憩は日課のようになっていた。 「咲夜も貴方たちの分まで紅茶の用意をしとけばいいのに」 「レミィが飲んでるのと同じのは、私たち飲めないわよ」 「それもそうね」 レミリアの飲んでいる紅茶は、人間の血を混ぜた特別製らしい。血が主食である吸血鬼だが、幻想郷内での吸血は基本的に禁じられている。外界の人間の血が提供されているようだ。最近では献血が盛んなので、昔より食料の補給は楽なのではないか。 「でも、この紅茶は美味しいわ。また腕を上げたわね、小悪魔」 「ありがとうございます、なのさ」 「俺もこっちに来てから、紅茶にハマったからなぁ……」 「そういえば、ここで働きだした頃は珈琲が欲しいって、いつも言ってたのさ」 俺が幻想郷に来た理由は、それほど難しいものではない。 実際のところ、ただの偶然だ。 七曜の魔女と言われるだけあって、パチュリーは七つの属性の精霊を使役した魔術を得意とする。普通は一つの属性の精霊を支配するので精いっぱいなのだが、彼女は同時に二つ以上の精霊を意のままに操ることができる。物凄い腕前らしいのだが、魔術そのものを理解できない俺にとってはよくわからんことだ。ただ、いつも図書館内で新魔術の開発と言う名目で、怪しい実験を繰り返しているのを見ると、努力家(ただの暇つぶしかもしれない)なのだろうということはわかる。 閑話休題。 そのときもパチュリーは新たな精霊召喚の魔術を試していた。同時に俺は、たまの休日を満喫していた……はずだった。激しい衝撃と眩暈とともに視界が暗転し、ここ、紅魔館大図書館の一角に転移させられるまでは。 要するに失敗である。術式の途中で召喚対象の設定を間違えたそうだが、未だに正確な理由はわかっていない。俺が選ばれる可能性なんて、それこそ天文学的な数字であろう。宝くじに当たったようなものだと、今では開き直っている。 「○○が来てからもう半年近くになるのね」 「初めの頃の狼狽ぶりからだと、見違えるわ」 「その話はやめてくれ。一般人がいきなりあんな状況になったらビビるだろ、普通」 突然わけのわからんところに連れて来られて、混乱しているわけで。目の前にはパジャマみたいな服を着た女の子が怪しげな呪文をもにゃもにゃ唱えてるし、その後ろには明らかに生モノの羽の生えた女の子もいる(今でもパチュリーの服装は魔女に見えない)。そりゃ腰くらい抜かしても仕方ないと思いませんか? 見かねた小悪魔さんが、この館の主に会わせてくれたと思ったら、見た目十歳くらいの幼女だし。吸血鬼だし。メイド長は人間だと聞いてたけど、どうみてもDIO様です本当にありがとうございました。むきゅ~。 「それで……他の外界の人間にアテがあるの?」 ああ、そういえば外界旅行の話でしたか。半年もこっちで暮らしてると、人里の方にも少しは知り合いがいるけど、そういうことができる人間はいない。 「うーん、ないなあ」 「あったとしても、見ず知らずの人間を連れて行くなんて嫌」 なら聞くなよ。まあ、赤の他人とは見られてないとわかっただけでも良しとしておこう。 「その程度には信用してくれてると?」 「そりゃあ……そうだけど」 だんだんと小さくなる語尾。旅行へ行くこと自体は良いのだが、本当は一人旅をしたくて、俺を連れていくのは嫌だとか? 俯いてしまったパチュリーの思考は、俺にはさっぱりわからない。 パチュリーが失敗の責任を取るという形で、レミリアは俺が紅魔館で働くことを許可してくれた。 最悪、食われるという結末も用意されていたのだから、かなりマシな結果だったろう。 幻想郷で生活することについて特に問題はなかった。向こうでは季節雇用の出稼ぎ労働者だったし、親しい身内や友人もいない。仕事して、仮住まいのアパートに戻って……というだけのモノトーンな生活である。 幻想郷に迷い込む中に、けっこうな数の自殺志願者がいるらしいが、流石にそこまでではないにしても、現実に希望を見出せないという点で俺も似たようなものだった。極端な話、働いてメシが食えればどこでもよかったのだ。だからかもしれないが、早くにこちらの気風に馴染めたんじゃないかと思う。 紅魔館は吸血鬼が住んでいることもあって、活動時間は夜に集中している。俺の主な仕事は、大図書館の蔵書整理と館内の雑用。他に力仕事があれば進んで受けることにしていた。働かないレミリアはともかく、パチュリーや咲夜さん、小悪魔さんは肉体的に女の子と変わりないわけで。男手は貴重な戦力になっているようだ。 そんなこんなであっという間に半年が過ぎ、春から秋へと季節はとめどなく流れていた。文明の利器のない生活にようやく慣れ、落ち付いて今後のことに思考が回るようになったころ、パチュリーの外界旅行の話が舞い込んできたのだった。 転機かな、と思う。ここらで一度、自分が生まれ育った世界を見つめなおしたい。いずれ向こうに戻るにせよ。こちらに居つくにせよ、いま俺がやっておかねばならないことのように思う。 パチュリーの沈黙に助け舟を出すようにして、 「これも――運命と思って諦めることね」 と、レミリアは言った。 獲物を狙う狼のような含み笑いを湛えての台詞。彼女がその言葉――運命――を口にすると、洒落にならない重みが加わるから困る。幻想郷を紅色の霧で覆った事件、それより前、紅魔館が幻想郷へ来たばかりの頃に起こした吸血鬼事変。二つの首謀者であるレミリアの能力とは、ありあまる力でも身体能力でもない。運命を操る――などという、わけのわからないものである。しかし、 「あんまり簡単に言わんで下さい。俺は運命って信じてないから」 何でも運命で片付けられたらやってられない。いまさら足掻いたって、どうにもならないこともある。既に起きた事実は変えられなくて、未来は変えられる。そこに至るまでの努力すら運命だと言うのなら、自分っていう存在はなんなのだろうか。 「そうかしら? 私には見えるわよ。数多の運命の糸が絡み合う世界が」 本当か? とは口にしない。言っても詮無いことだし、説明してもらって理解できるとも思わない。 「例えば……そうね、あんたたちの運命とか」 俺とパチュリーを見比べて言う。 「どういうことだ?」 「まんまの意味よ。あんたたちの辿るはずの数奇な運命――」 「やめてくれ」 「今回の外界旅行は――」 運命を未来の出来事だとするのなら、それは不躾なものだ。ましてや、それを操ることが出来るというのなら、押し付けがましいものでもある。出来るならば聞かせて欲しくない。 「レミィ」 と、パチュリーが静かな声で友人の言葉を遮る。珍しく棘があるように聞こえたのは気のせいだったろうか。俺としては有難かった。どうもこういう話は気に食わないようだ、理由はわからないが。 「○○も。レミィの能力は呼吸と同じように存在するもの。ある者はない者のことをわからないものよ」 思考を読んだかのような彼女の言葉。 当たり前だと思っていることで相手を不快にさせる。右と左を間違うくらいの確率で、ままあることだ。常識と常識のすれ違いといったところだろう。話してみなければわからないこともある。だから、別にレミリアのことが嫌いなわけじゃない、と、レミリアに視線を向けると、彼女も肩を竦めてみせた。 「話題が逸れちゃってたな」 「そうみたいね。パチェ、続きは?」 とパチュリーに視線が集まる。 「……そう、それで、○○はどうなのか。一緒に行ってくれるのかな? もしかしたら……外界に帰れるチャンスかもしれないよ」 うって変わって、風が囁くような声で言う。 パチュリーの意図が先ほどから掴めなくて困る。俺に対するときだけ弱気になっているようだ。それが何を意味するのか、わからない。 旅行については問題ない。喜んでついていくだろう。相方がパチュリーであることに戸惑いはあるが。 実のところ、普段の生活の場で、割と近くにいるはずなのに俺とパチュリーとの会話は殆ど無い。無限に知識を求める魔女――と聞いていたので、最初の頃は外界のことに聞かれるかと構えていたが、そんなことはなかった。仕事の場合も、必要最小限のことを指示するぐらいである。だからといって嫌われているわけでもなさそう。たまたま廊下で出くわしたときも、こちらから挨拶すれば目礼くらいは交わしてくれるし。レミリアに対する場合は別として、彼女は誰にもそんな感じの態度だから。 とはいうものの、こんな形でパチュリーに指名されるのは予想外だった。 他に外界出身で適任者が紅魔館にいないとはいえ、だ。 「うーむ」 どちらにせよ俺が頷かないと、この話は立ち消えになるわけで。わからない部分は、時間が解決してくれるさ、と自分を励ましておく。こいつらが本気になれば、意思など関係なく無理やりにでも良いのだ。そういうことはしない――緊急時じゃない限り――というのは経験上わかっている。だからこそ俺はこの場所に留まっているのだから。 それに、上目使いでこちらの様子を窺っているパチュリーの表情を見ると、ジェントルな俺は断れないじゃないか。 「仕方ないな」 小さく聞こえた溜息は安堵のものなのだろうか。パチュリーは、ほっとした様子で眉尻を下げ、木の芽が綻ぶような微笑みを見せてくれた。 それほどまでに外界に行きたい理由は何なのか。知りたいと思うが、聞いても語ってくれない気がする。あまりプライベートに立ち入るのは良くないとも思う。もし語れるような心境になったとしたら、自然と零れてくるものだろう、こういうことは。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ198 どこまでも果てしなく広がる宇宙の姿が、丸窓の形に切り取られてロケットの壁に貼り付いている。 視界の半分を埋めるのは薄らと白く、優しくぼんやりと輝く青い星。 そこに住まう人々が名付けた数多の星座。尾を引いて飛んで行く彗星達。 自覚する。 夢を見ている。 頭に三角帽子を被って、お尻からコンロみたいな火を噴き続けている落書きロケットは、そんな自分を乗せて宇宙を飛び続けている。 不思議な、素敵な夢だ。 いっちょ前に備え付けられたコンピューターは静かな駆動音を響かせ、聞いたことも無い星系から発信しているらしいラジオは、緩やかな曲調の歌を流している。 そして、無重力に遊ばれてゆらゆらと部屋に浮かぶ、赤。 それをもっと良く見てみたくて、 手を―――― 「……」 「……おはよう」 寝息一つ立てずに椅子にもたれて、珍しく眠っていた魔女は全く唐突に目を覚ました。 そのまま無遠慮に目の前にある顔をしげしげと眺めて「カボチャ……では無かったわね」と呟いた。 これっぽっちも腑に落ちないが、酷く失礼な事を言われたのではなかろうか。 しかし、謀らずも勝手に寝顔を拝む形になっていた事に少なからず引け目を感じた○○はその不満を飲み込み、変わりに思った事を口に出すことにした。 「パチュリーが寝てるところなんて初めて見たな」 以前、魔法使いには睡眠は必要ないとか言っていたような気がする。 「最近忙しかったから、気分的にでも休養を取ってみたの」 パチュリーは眠たげな目をしたままぼんやりと答えた。ちなみに寝起きでなくとも彼女は普段から大体こんな目つきをしている。 「意味あるのか? それ」 「病は気から」 「確かに気合が不足してそうだな。慢性的に」 パチュリーはそれには答えずにテーブルの上の本に手を伸ばす。 ○○は、彼女がひとたび本に没頭しだすと完全に外界をシャットアウトしてしまうのを知っている。 「なぁ、忙しかったワケってさ」 「ロケット製作」 先に言われてしまった。 「門番から聞かなかった?」 「ワガママ君主と他数名で月旅行中らしいな」 聞きたいことはそれだけ? と、目が言っている。 窺うような視線を受けて、軽く息を吸ってから告げる。 「俺も行きたかった」 胡乱な瞳が僅かに揺れる。どうやらこの返答はそれなりに意外だったらしく、手の上の本を一時テーブルに戻してくれた。 「あなたが宇宙に興味を持っていたとは知らなかったわ」 男の子ですから。と返すと、何よそれ。と再びジト目で睨まれた。 「いつも土いじりの本ばかり借りて行くクセに」 「そっちは生活が懸かってるからな。いつも助かってるよ。ありがとう」 「私が書いた本じゃないし」 「拗ねるポイントはそこなのか」 ふと席を立ったかと思うと、彼女は近くの本棚から一冊の本を抜き出して戻ってきた。そして、そのまま手に持った本をこちらに差し出して一言だけ。 「はい、コレ」 「何だコレ」 渡された本は、やたら分厚いくせにその割に控えめな装丁を施された物だった。 「錬金術のハウツー本よ。書いたのは私」 脈絡が無い上に意味がわからないんですが。 「私が直接手渡しした時点で仕掛けは外れているから魔力の無い貴方でも問題なく読めるわ」 「はぁ」 「内容についてもヘルメス文書にも負けていないつもりよ」 「そうですか」 「宇宙に行きたいんでしょ?」 まさにその宇宙そのものを秘めているかのようなコスモ的な色の瞳でトツトツと語るパチュリー。さっきから微妙に話が通じていない気がする。誰か小悪魔を呼んできてくれ。 「錬金術の究極的な命題は魂の浄化にあると言えるわ。人の卑俗な魂を神霊のレベルにまで昇華させ、それによって遍く全ての物質を組成している第一質量を意のままに操ることができるようになる。つまり金の練成、万能薬の生成、生命の誕生、宇宙の創造すらも自らの手で実現する事が可能になる訳ね。そもそも宇宙というものを本質的な概念で捉えると」 俺の困惑なぞ知ったことかとばかりに頼もしくシカトをくれつつ、淀みなく長広舌をぶち続ける姿は、正直、かなりアレだ。 それでいて目線はしっかりこちらを捉えたまま動かないので冗談抜きで怖い。つうか持病の喘息はどうした。 「要するに、不完全を完全に。これを目指すのが錬金術なの。何か質問はある?」 これだけ熱弁を振るったにも関わらず、いたって涼しい顔をしている事についてこそツッコみたかったが、迂闊に口を開けば倍返し程度では済まなさそうなのでやめておいた。 目の前の何故か生き生きとした様子のパチュリーと、手元の本の表紙を交互に見つめて、軽く息を吐く。 「悪い。やっぱこの本、返すわ」 一瞬だけ翳ったその表情に、胸が痛む。 「そう。残念ね」 本を渡すと、既にいつもの眠そうな目つきに戻っていた。 「天地創造は俺にはちょっと荷が重い。おとなしく畑を耕してる方が性に合ってる」 床に置いていた鞄に手を突っ込んで収穫したばかりのトマトを取り出し、テーブルに置く。土産のつもりで持って来ていたのだがタイミングを逃してしまい、出しそびれてしまっていた。 突如として出現した赤い果実に、パチュリーの目が僅かに困惑の色を滲ませる。 元より月の石になんか興味は無かった。 月面に旗を立てて何かを主張したかった訳でも無い。 ただ、単純な理由だ。 「それにな、俺はパチュリーの造ったロケットに乗りたいんだ」 それだけの話だ。 机の上のトマトは、どこまでも普通のトマトだ。 赤くて、甘くて、少し酸っぱくて。 うちの畑で採れた、日の匂いのする宇宙のかけらだ。 トマトを見つめたまま動かないパチュリーが妙におかしくて、少し意地悪をしたくなった。 「どうぞ召し上がれ」 弾かれた様にトマトからこちらへ、またトマトへ。交互に視線を送るパチュリーを見て唇がつり上がるのを抑えきれない。 「あの、○○? ひょっとして」 「水洗いしてあるから大丈夫」 何が大丈夫なんだとはあえて言わない。 「……咲夜が帰ってきたらパイにしてもらいましょう。紅茶も淹れて。うん、そうしましょう。レミィも喜ぶわ」 「採れたてを食べるのが良いんじゃないか。五、六個持ってきたから、そっちを今度パイにしてもらえばいい」 「そもそも私、食事摂らなくても平気だし」 「好き嫌いは良くないな」 からかわれているのが分かっているのに無碍にも出来ないという内心の葛藤が手に取るように見えるので実に面白い。これはどっかの素兎でなくても「うささささ」と言いたくなるというものだ。 こっちがニヤニヤと笑っているのに気付くと、パチュリーは少しムッとして席を立ってしまった。 ちょっとやりすぎたか、と慌ててこっちも席を立とうとすると、パチュリーは難しい顔で眉をひそめたまま、ポツリと呟いた。 「本を戻しに行くだけだから。汁、飛んじゃうでしょ」 ───────────────────────────────────────────────────────────
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Nパチュリー タイプ: 理樹 スキル1.動かない大図書館:相手のスペルが急所に当りません。 スキル2.火水木金土日月を操る程度の能力:全ての属性のスペルが属性一致扱いの威力になります。 重複弱点(3倍): 虫 弱点(2倍): 毒風霊氷炎闇 抵抗(1/2倍): 樹闘地水雷理 重複抵抗(1/3倍): なし 無効:なし 種族値・同タイプ比較 理/樹 HP 攻撃 防御 特攻 特防 速度 合計 Nパチュリー 80 30 75 125 150 85 545 A輝夜 125 40 85 150 100 60 560 スペル スペル名 属性 分類 威力 命中 消費 詳細 アグニシャイン 炎 特殊 70 100 5 20%の確率で、相手を火傷させます。 プリンセスウンディネ 水 特殊 70 100 5 30%の確率で、相手の命中を1段階下げます。 シルフィホルン 樹 特殊 70 100 5 30%の確率で、相手の特攻を1段階下げます。 レイジィトリリトン 地 特殊 70 100 5 30%の確率で、相手の特防を1段階下げます。 メタルファティーグ 雷 特殊 70 100 5 30%の確率で、相手の速度を1段階下げます。 サイレントセレナ 理 特殊 100 100 20 20%の確率で、相手を混乱させます。 サテライトヒマワリ 樹 特殊 100 100 20 数ターンの間、相手のHPとVPに継続してダメージを与えます。 ロイヤルフレア 炎 特殊 100 100 20 20%の確率で、相手を火傷させます。 考察 基本評価 紅魔館の図書館に居る喘息持ちの魔法使い 可愛い 喘息持ちという事からかHPが低く防御も低めなので等倍で落ちることもしばしば ただ特防が高いので特殊受けなら問題ないかと 特殊火力も凄まじく高く全一致スキルも持つ為多くの相手に痛手を負わせる事ができる 運用方法 基本的にやられる前にやるタイプ 樹スペルに継続がある為相手が神子や妹紅を持っていても撃破可能 対物理での受け出し性能は0に等しい為、先発か相手の出てるコダマを倒してからに限られる 多数の相手の弱点を突ける複数の属性のスペルを全一致スキルのおかげで相手できるコダマは多い ただ速度がそこそこで先制スペルを持ってない為高速物理(文系統など)に要注意 BP振り 基本的にCS極 ただ高い対特殊性能を生かしDやHに振るのもあり やらないと思うがAに振っても全く意味がないので要注意 装備候補 火力upC 基本的にパチュリーcなどの特殊upCがオススメだが苦手な属性があるなら単属性up 短期決戦に持ち込むならフランcも相性がいい為オススメ 先制C 高速に対峙する時が多いなら必須 麻痺によって速度が落ちても何とかなる時がある 速度上昇C 運命力が低くて先制Cが発動しない場合はこれもあり 抜ける相手が増える ダメージ軽減C 対特殊での受け出し性能を上げることができる 相手が物理の場合意味が無い時があるため注意 復活C 対物理だと一撃で落ちる事も多いので神子cを持たせ特攻させたり 対特殊で妹紅cを持たせて長期戦も狙える というか紙装甲の必須装備 執筆者 魔装図書館長雷伍(14849)
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(ぱちゅりーろぼ) 「メインエンジン起動…!バーニアユニット正常、システムオールグリーン… 行くわよ…!パチュリーロボ、発・進!」 性別 職業 種族 属性耐性 状態異常耐性 フィールド耐性 特記事項 - メカ 自動行動 初期ステータスデータ(*1) LV MHP 力 速 体 知 ? 4桁以上 ? ? ? ? 初期装備 部位 名称 性能 コメント 頭 ? 右手 ? 左手 ? 体 ? 装飾品 ? 習得技 技名 習得条件 効果 ヒット数 必中 攻撃依存 防御依存 属性 射程 範囲 備考 コメント スピンニードル 初期技 攻撃 B 単体 ロイヤルフレア 初期技 攻撃 A 全体 溜め技 バベルノンキック 初期技 攻撃 G 単体 脱出ポッド イベント 攻撃 B 単体 能力評価 操縦はパチュリーが担当しているため、本作ではプレイヤーが操作することは不可能。 ロイヤルフレアやバベルノンキックなどの圧倒的な攻撃力を持つ技でふらわー戦車やイビルアイを圧倒したが、ヤゴコロ大王には歯が立たなかった。 キャラクター概要 パチュリーロボの元ネタは黄昏フロンティアの同人アクションゲーム『MegaMari』。 同作品においてラスボスを務めており、ドリルミサイルや自身の体と同じ大きさのビームのようなものなどを武器としていた。 コーキー氏のコメントによると本作のパチュリーロボはプロトタイプでMEGAMARIのと別物。 本作においてはブリキ大王風のアレンジが加えられていると思われる。 ちなみに原作においては後姿を見せていないので、本作における後姿は絵師によるオリジナルと思われる。すげえ。
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■パチュリー2 紅葉の季節が過ぎれば、雪が降ってくる。 チルノが元気に大暴れしそうな天候だったけど、私の所まで被害がくることもなさそうだし、 その時は先に咲夜が何とかしそうだから、放っておいた。 紅魔館に行く度に、弾幕ごっこなんてしてたら身が持たない…… って程じゃないけど、やっぱり私はのんびりするのが性に合ってる。 「……うん。やっぱり部屋は快適な方がいいわよね」 紅魔館から帰って来た私は、冷えて来た外気を追い払うべく、押し入れの中の秘密兵器を取り出した。 ……まぁ、彼女がこのためにわざわざ足を運ぶなんて、私も思わなかったけどね。 「寒いぜ寒いぜ、寒くて死にそうだぜっ!」 「ちょ、ちょっと師匠!早過ぎますってば!!」 猛吹雪の上空を飛んでいく影2つ。 俺は師匠に連れられて、博麗神社に向かっていた。 「森羅結界展開しながら寒がるって、どれだけ寒がりなんですかっ! しかも展開しながら、何て速度出してるんですか!!」 辺りはまさにホワイトアウト。 叫んでるのは、少し離され気味だからだ。 ここで逸れたら、遭難は必死だろう。 師匠は解ってそうだが、自分が今どの辺りを飛んでるのか、まるきり見当がつかない。 「あーもーお前に合わせて飛んでたら凍死するっ!」 急に減速する師匠。 離されるばかりだった距離が一気に縮まる。 そして、むきゅー……と、首根っこを掴まれた。 「いだだだだだっ!」 「一気に行くぜっ! 彗星『ブレイジングスター』!!」 「師匠師匠絞まってます!」 「しっかり掴まれてないと振り落とすぜっ!」 「あ~寒かった……って、どうした霊夢。寒い顔だな」 「どうしたじゃないわよ。このままだと、あなたの弟子が白玉楼に逝きかねないわよ?」 「あ~……うん。きっと首掴まれて運ばれるのが趣味なんだ。離せばきっと、妹紅みたいにリザレクション……」 「しませんってば!!って……着いたんですか?」 寒さと加速と窒息でブラックアウトした意識を取り戻した俺が見たのは、 雪がしんしんと降り積もる、博霊神社の境内だった。 「……本当に復活したわね」 「このくらいタフじゃなきゃ、私の弟子は務まらないぜ」 「寒さに弱い師匠が言うことじゃないでしょうに。 少しは霊夢さんを……って、寒くないんですか?」 出迎えてくれた霊夢さんの服装は、いつもと変わらない独特の巫女装束。 秋くらいから思ってたけど、やっぱり肩とか寒そうな感じが。 「そりゃ寒いわよ。魔理沙ほどじゃないけどね」 暖気を集めて展開する森羅結界なしで、こう言える人間は彼女くらいだろう。 「ほらほら、入った入った。もう先客来てるんだから」 「先客?」 「会えば解るわよ。あ、あなたはちょっと待って。みかん持ってほしいから」 勝手知ったる人の家、とばかりに師匠はずいずいと、 俺は霊夢さんの後に従い、神社の奥へ。 彼女はお茶の用意一式を、俺はみかん箱を抱えて廊下を歩く。 『ちょっ、魔理沙、くすぐったいじゃない!』 『仕方ないだろ寒かったんだから。おー……あったかいな。じんわり来るぜ』 『ひゃぅっ!足くっつけないでよぉ……』 聞こえて来たのは、師匠と……物凄く聞き覚えのある声。 「……いやいや霊夢さん。嵌めたんですか? 師匠とグルなんですか? そもそもいつから知ってたんですか!?」 「嵌めてもいないしグルでもないし…これくらい、あなた見てれば解るわよ。……好きなんでしょ?」 「そ、それは……」 こうも真っ直ぐ言われてしまえば、もう何も言い返せなかった。 「きっと、魔理沙も気付いてると思うわよ?」 「幻想郷にはプライバシーも何もないんですか……」 「ああ、それならまだ大丈夫よ。新聞にでも載らなきゃ、私達以外には知られないと思うし」 新聞――は、あれしかないよな。 間違いなく、文さんが作ってる新聞だ。 幻想郷に来たばかりの頃、色々聞かれて記事にされたっけ。 ……記事にされたから、多くの人と知り合えた。確かにそれは事実だ。 だけど、こんなコト記事にされたら、幻想郷の全員にからかわれかねない…っ! 「ま、早く春が来るといいわね。幻想郷にも、あなたにも」 霊夢さんが襖を開ける。 「お待たせ。お茶とみかん持って来たわよ」 「おお、待ってたぜ霊夢」 「えっ……?」 彼女は、驚いた表情でそこにいた。 紅魔館の図書館の主、パチュリーさんだ。 「ま、魔理沙っ!」 「ちょっ!おいおい、何処に…」 「いいからお願いっ!!」 思いがけない人物の登場に、私は衝動的にコタツから魔理沙を引っ張り出し、廊下に連れ出していた。 すれ違いざま、彼が何か言ったような気がしたけど、必死な私には聞こえなかった。 「ぜーはーぜーはー……」 「おいおいパチュリー、急な運動は身体に障るぜ?」 「解ってるわ…でも、何で彼がいるのよ?」 図書館によく来ては、魔導書を借りていく常連の彼。 『紹介するぜ。私の一番弟子だ』 魔理沙から紹介されたのが、初めての出会いだった。 勉強熱心なのか、魔理沙の教え方に問題があったのか、彼はよく図書館に来てくれた。 ……師に似て大量に借りていく割に、師に似ずしっかり返してくれるのは、まあ助かったけど。 まあ、その、新しい知識を得たときの輝いてる眼とか、 簡単な魔術を必死になって行使している様子とか、本の整理を手伝ってくれる優しさとか……。 ……好きに、なってしまったのかもしれない。 だから、コタツの研究も兼ねて魔理沙に相談するために、神社まで頑張って来たのに……っ! 「何でって、遭難されても困るしな。首根っこ掴んで連れて来た。 最近うちは雪崩が酷くてな。生き埋めになったらまず助からない」 「雪崩って……」 「私の蒐集物だ。私が留守にしてるとあいつが整理してくれるんだが、生き埋めになられると私が困るんでな。 パチュリーも会いたいだろうと思ったから、無理矢理連れて来た」 雪崩の話は魔理沙のせいでしょ……最後、何て言った? 「わ、私が…?」 「バレバレだぜ。図書館に行くと、明らかに応対が違い過ぎだからな。小悪魔にも、様子が変だって相談されたし」 小悪魔にまで? そんなに、変だっただろうか。 ……まあ、終わったことは置いておくにしても。 「来るなら来るで、まえもって言ってよ……」 そうすれば、私だって可愛い服とか探したり…。 「――ああ、なるほどなるほど。フランも結構、いい名前をつけるじゃないか」 魔理沙は一人で納得していた。 ……妹様? あまり穏やかじゃない気がするわね。 「で、どうする……って、答えさせるまでもないな。 このまま帰るとか言い出したら、私が力ずくで引っ張ってく」 「帰ったりはしないけど……その、恥ずかしくて…」 今思い返せば、相当変な形で部屋を飛び出してしまった。 どんな顔で戻ればいいんだろ……。 「普通にしてればいいぜ。きっと霊夢がフォローしてくれるだろ」 「……魔理沙は?」 「いざとなったら、あいつの脳天にマジックミサイル撃ち込む。 さ、早く戻ろうぜ。じゃないと、あいつの頭に風穴が空きかねない」 師匠とパチュリーさんは、数分して戻ってきた。 『どうかした?』と聞いたのは霊夢さん。 それに答えたのは師匠で『秘密を詮索すると、消し炭になるぜ』とのこと。 物騒な。とは思ったけど、これもいつものこと。 パチュリーさんは終始無言だった。 ……師匠自ら、何かあったって言ってるようなものだし。詮索はしないけど。 魔理沙達が、何やら話している。 たまに私に話が振られるけど、緊張していたからか、曖昧な返事しか出来なかった。 それもこれも、私の隣に彼がいることが原因。 席を決めたのはただの流れだったけど、彼の正面じゃなかっただけよかったのかも。 正面だったら……きっと私は顔を上げることも出来なかったと思う。 だからせめて、この緊張を紛らわすために、彼が注いでくれるお茶を飲むしかなかった。 「それじゃ、魔理沙の弟子って言うよりは」 「家政夫、ですかね……修行はちゃんとつけてもらってますけど」 「咲夜には及ばなそうだが、優秀なメシスタントだぜ。 私の家に来ればこいつがご馳走するぜ。パチュリーも一度どうだ?」 「うん……」 俺達はコタツでだべっていた。 主に話すのは、師匠と霊夢さん。 時折、俺にも話が振られるけど、そう困る話じゃない限りは普通に答えられた。 ただ、終始パチュリーさんの元気がなかったのが、気掛かりと言えば気掛かりだった。 気付くと、彼女の茶飲みの中身が半分くらいに減っていることがあるので、近くの俺が注いでおいた。 「頃合いかしらね。そろそろお開きにしましょうか」 「えー」 楽しい時間は終わり、外は結構暗くなっていた。 師匠が不満の声を漏らしていたけど、それで続行する霊夢さんじゃない。 「それじゃあ私も……」 名残惜しそうにコタツから出たパチュリーさんは、立ち上がろうとして……固まった。 「……パチュリーさん?」 「変ね…精霊の気配が…」 彼女は小声で何か呟きながら、魔力を練る。 だが、それが術になることはなかった。 「魔法が……使えない?」 信じられない、といった表情で漏らした言葉。 聞いた自分自身も、信じられなかった。 師匠の説明によると、師匠とパチュリーさんの魔法の系統は、根本的に違うらしい。 俺が学んでいる師匠の魔術は、自分の魔力を直接的に力へ変換する魔法。 対してパチュリーさんの魔法は、精霊に魔力を与え、それに見合う効果を得る精霊魔法。 精霊とのコンタクトが出来なければ、彼女の魔法は成立しない……。 「素直にならないからだな」 「魔理沙だって迷ってれば、飛べなくもなるでしょ。 パチュリーもそうじゃない?」 原因を的確に突く、2人の言葉。 問題点を明確にするのは、問題解決の第一歩だけど……。 彼の前で、何てこと言い出すのよ……っ! 私の気持ちを見抜いたのか無視したのか、魔理沙は更にとんでもないことを言い出した。 「よし、今日は特別サービスだ。私の弟子を貸してやる」 「え、俺?」 「普段、本借りてるからな。今日だけパチュリーに貸してやるぜ。 今日の修行だ。パチュリーを紅魔館まで無事に送り届けて来い」 ねえ、魔理沙。 それは……応援してくれてるの? 「術式展開スペルセット・領域編集エディット・森羅結界構築フィールドセット……」 呪文を唱え、自分の周囲に森羅結界を展開していく。 ただでさえ寒い上に、身体の弱いパチュリーさんを乗せて飛ぶから、結界は必須だろう。 いつもとは勝手が違い、2人分の範囲が必要になるが、何とか展開出来た。 「お、やれば出来るじゃないか」 「修行は真面目にやりますよ。……正直な話、修行とは思えないんですが」 「いやいや。この上なく正当で真っ当な修行だぜ。少なくとも、私の流儀ではな」 俺の気持ちに気付いてる師匠なら……いや、師匠だからこそ、こうして俺を焚きつけたんじゃないか。 そう考えても、否定する材料が見つからない辺り、この人はいい性格をしてると思う。 「パチュリーさん、準備出来ました。いつでもいけますよ」 「うん……お願い。あ、あったかいのね…」 パチュリーさんは、まだ元気がない。 余程ショックだったんだろうか。いつもの彼女とは様子が違い過ぎる。 「……リクエストはありますか?」 「パチュリー、そこはお姫様だっk」 「魔理沙っ!」「師匠っ!」 あーもー、どうしてこの人はこんな状況で茶化すかな……。 「あ、忘れてたわ。はいこれ」 俺達の怒声に入れ替わるように、霊夢さんが何か手渡してくれた。 「霊夢さん……これ、何のつもりですか?」 「お守りよ。見て解るでしょ?」 「全力で遠慮させて頂きます」(キッパリ) さすがに……口に出しては言えないので、全力で突き返した。 「術式展開スペルセット・飛翔天駆エアウィング…!」 結局無難な所で、彼女をおぶって飛ぶことにした。 「吹雪で帰って来れなくなったら、紅魔館に止めて貰えよー!!」 「送り狼になっちゃ駄目よー!」 ……背後、というか眼下から、聞き捨てならない声がしたけど、敢えて黙殺することにした。 上空は相変わらずの視界不良。 山の季節は変わりやすいって言うなら、そろそろ晴れてほしいんだけど……。 「湖の方に降りれるかしら……私が来た時は、ここみたいに酷くはなかったわ。 山は地形のせいで風が乱れやすいの。湖上なら、風は安定しているはずよ」 「湖ですか……確か、向こうですよね」 「ええ、そうよ。霊夢より方向感覚は優れてるみたいね」 湖は紅魔館の近くにあるし、岸沿いに飛べば、必ず着けるだろう。 程なくして、見慣れた湖の風景が視界に広がって来た。 「………」 「………」 互いに、無言。 集中しなきゃいけないから、静かなのは歓迎だけど やっぱり身体が密着してるし、吐息とかが凄く聞こえる距離な訳で。 ……紅魔館まで、飛べるだろうか。色々な意味で。 「聞いても……いい?」 首に回された腕に、力が込められた……と思うのは、気のせいだろうか。 「何を、ですか?」 「魔理沙のこと…どう思ってるの?」 「さしずめ、恋の迷路って感じか」 博麗神社の奥で、魔理沙はみかんを口にほうり込みながら呟いた。 「フランがどうしたのよ?」 「いやいや霊夢。揃いも揃って、恋の迷路に迷い込んだってトコじゃないか、あの2人」 互いに想いを募らせているにも関わらず、言い出せるだけの勇気を持てず、不安になって迷い続ける。 同じ場所を行ったり来たり。 悩んで迷って考えて、ぐるぐる回って同じ場所。 それを例えて、恋の迷路。 「ああ、そういうことね。どちらかと言えばパチュリーの方が迷ってそうだけど」 「そうだな……でも、心のバランスが取れなくなるくらいの大恋愛ってことだぜ。 何せ、魔法が使えなくなるくらいの不安定っぷりだ」 「まあ……でも、いいんじゃない?私達が見てる分にはほほえましいし」 「迷路をぶっ壊す、きっかけがあればいいんだろうけどな。 だけどな霊夢。だからといって、安産祈願のお守りは気が早過ぎないか?」 「あら、いいじゃないの。それとも、中に入れてたスペルカードの話? 心配するに越したことはないし、扱えるだけの技量は見せてもらったし。 魔理沙が弟子に取るだけの素質はあったってことね」 「だったら、普通に渡せばいいじゃないか」 「面倒だったから、お守りの中に入れて一緒に渡したのよ。結局返されちゃったけどね。 それより魔理沙……いつ帰るつもり?」 「寒いから泊めてくれ。……間違えた。寒いから泊まる。このコタツごと帰れるなら話は別だが」 「はいはい。仕方ないわね」 ――ま。頑張って迷路からお姫様を連れ出してやれよ。 この恋の魔法使い、霧雨魔理沙の弟子なんだ。 それすら出来なきゃ、いっそ破門にでもして、図書館に押し込むのもいいかもな。 彼の一番近くにいるのは、やっぱり魔理沙。 彼を拾ったのも、魔法を教えたのも、一緒に住んでいるのも彼女。 だから、彼が好きになっててもおかしくないと思う。 「師匠は師匠ですよ。 強引で、人の迷惑考えてなさそうですけど、少なくとも間違ったことはしないって思います。 ……あ、でも本の借りっ放しは謝ります。いつもすみません、隙を見て持って行きますから」 「べ、別にあなたが謝らなくても……魔理沙が勝手なだけよ」 ちょっと安心した。 彼の答えにもだけど、魔理沙がちゃんと信じられてるのも。 あんな性格だけど、やっぱりちゃんとした魔法の師匠なのね。 「じゃあ、霊夢は?」 人だけじゃなく、妖怪からも鬼からも好かれる霊夢。 誰からも好かれるから、もちろん彼も……? 「う~ん…面倒見のいい姉さんみたいな感じ、ですね。 ほら、師匠がアレなんで……家事は霊夢さんに習ったこともありますし。 ただ、森のキノコの調理法は教えて貰えませんでしたけど」 「仕方ないわよ。魔法の森のキノコの種類、相当あるんだから。 毒キノコだけは、食べないように気をつけた方がいいわ」 「……はい。3回くらい当たったんで、身に染みてます」 た、食べたの? 死ななかっただけ……運がよかったのね。 ……うん。やっぱり聞きたい。 恐いけど、私は聞かなきゃいけない。 本を読み掛けで開いたまま、次のページをめくらないのに似てる。多分。 ずっとこの気持ちを閉じ込めたままなのは、やっぱり切ないから。 「じゃ、じゃあその……私のことは?」 あたいは湖の上を飛んでた。 なぜって、冬だから。 レティが帰ってくるから、迎えに行こうとしてた。 冬に帰って来て、冬の終わりに行っちゃうけど、 どこから帰って来てどこに行っちゃうのか。 あたいは一度も教えてもらってない。 だけど、今日はこんなに雪が降ってるから、きっとレティは帰ってくる。 「……あれ?」 湖に、他に誰かいる。 えーっとあれは……そうだ、外から来た人間だ。 あたいと弾幕ごっこをしても弱い奴。また懲りずに勝負しに来たのかな。 あたいは正面に回り込むと、いつもみたいに声を張り上げた。 「また来たのね魔理沙2号っ! 今日も笑えなくなるくらい凍らせて……」 え――素通りされた!? 「無視するなぁっ!!」 咄嗟にあたいは、散弾を撃ち込んでいた。 そこから先は、本当に夢中だったから、あんまり覚えていない。 「俺は…その……っ!?」 彼女の問いに答えようとした瞬間、覚えのある感覚に襲われた。 ――狙われた!? 彼女の腕を掴むと、一気に詠唱を始める。 「補助術式展開サポートスペルセット・飛翔強化エアブースト!」 「え!?」 術式に魔力を無理矢理追加し、急激に速度を上げて一気にその場を離れる。 それでも、放たれた氷弾を全て避けることは出来ず、何発かは結界で弾くしかなかった。 「今のは…?」 「後ろから撃たれました。パチュリーさん、平気ですか?」 「ええ。驚いたけど、私は大丈夫よ。 私じゃ、相手はよく見えないけど……」 目が悪いんだろうか。 でもどのみち、弾幕ごっこでは相手の姿を見れても、自分にとっては大してプラスじゃない。 大事なのは、弾幕を避け続けること。当たらないことだ。 「このまま紅魔館まで逃げ切ります。構いませんね?」 「……そうね。応戦してあなたが負けたら、寒い中を歩かなきゃいけないし。 弾幕の経験はあるの?」 「張るのは苦手、避けるの専門です。たまにチルノと喧嘩する程度ですけどね」 「ちょっと、それじゃないも同然じゃ……」 「文句は後で聞きます。ちょっと失礼しますよ」 速度を調節して、互いの身体を入れ換え、正面から抱きしめるような体勢にする。 「……っ!?」 「後ろに相手が居るのに、パチュリーさんを盾にする真似はしたくないんです。 出来れば顎引いて、あまり喋らないで下さい。舌噛みますから」 出来る限り避けるつもりだけど、自分の技術じゃ不安しかない。 結界だって、毎回弾けるとは限らない。 貫通したら……まあ、弾避けの盾にくらいはなれるかな。 ……まあ、決して邪心がないかと聞かれれば、それはなくもないけど。 あまり甘いこと考えてると、すぐ落とされる。集中集中。 前に本で読んだ術式を思い返し、組み立て、魔力を込めて法に変える。 「補助術式展開サポートスペルセット・感覚強化インスピレーション!」 意識が澄んで、認識出来る世界が広がっていく。 さっきまでは見えなかった紅魔館も、死角にあるはずの弾幕も、全部自分の世界にある。 初めての割には上手く行った……けど、逃げ切れなきゃ意味がない。 でも、今の自分なら…っ! 「で。実際の所、魔理沙としてはどうなのよ?」 「まあ、私以上霊夢以下って所だな。まだこの煮付けの味付けの加減が……」 「料理の腕の話じゃないわよ。彼の師匠なんでしょ」 「ああ、弾幕な。とりあえず基礎中の基礎の、飛行方法と森羅結界だけは教えてあるぜ。 もう少ししたら、スペルカードの使い方を教えるつもりだったんだが……」 「一度実際に使わせた方が、面倒がなくて楽なのに」 「おいおい、私のスペルカードなんて使わせたら、たちまちガス欠で気絶するぜ」 「マスタースパークはともかく、私の封魔陣くらいなら大丈夫でしょ。 ……あ、そういえばさっきお守りに入れてたの、夢想封印だったわね」 「突っ返したあいつの方が正解だったかもな。 ただあいつ、図書館から本借りて来て勉強してるからな。 何種類かの魔法なら、もう扱えるみたいだ。 隠してるようだが、私の眼はごまかせないぜ」 「師弟揃って勉強熱心なのね……。 あーあ、私の代わりに異変の解決とかしてくれないかなぁ……」 「怠けるな怠けるな。 あの閻魔に今度は『あなたは少しのんびりし過ぎる』なんて言われるぞ。あ、おかわりくれ」 「はいはい、召し上がれ。……うん、42点かな」 「味付けがか?」 「魔理沙の物真似がね」 「氷符『アイシクルフォール』!!」 おかしかった。今日は何もかもおかしかった。 当てたはずなのに、当たってない。 逃げ場がないはずなのに、逃げられてる。 あいつがこんなに避けられるはずない。 あたいのアイシクルフォールも、嘘みたいに避けられる。 正面が弱いってレティに言われたアイシクルフォールだって、頑張ってあたいも撃ってるから、弱点なんてもうないはず。 ――なのに、当たらない。 いつもは互いに撃ちあってばかりだったけど、今日はあいつは撃って来ない。 知らなかった。あいつがこんなにすばしっこいなんて。 きっとあたいに勝つために、特訓したに違いない。 アイシクルフォールは何回も使ったから、もう見抜かれたんだ。 でも、こっちはまだ見せてないから――― 「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」 ――これで凍らせるっ! その弾幕は、覚えのある癖があった。 直前の魔力の集束からして、スペルカードの類だろうか。 規則正しい弾幕は、パターンを掴めば避けるのは簡単になる。 ただ、緻密な飛行制御が出来ない自分が、そう避けるのは難しい訳で。 「領域変更エディット――!」 パチュリーさんの周囲だけは結界を固定し、予想される着弾点のみに領域を限定して、結界を再構築する。 避けられる弾は避け、避けられない弾は、絶えず結界の範囲を変更・構築し、ピンポイントで受け止め弾く。 今までで、直撃はゼロ。 このまま行けば、何とか紅魔館まで……。 「2枚目、来るわよ!」 「はいっ!」 後方に高密の魔力。次の瞬間には、大量のばらまき弾が迫っていた。 速度と密度はさっきの比じゃない。全く別のタイプのスペルカードだ。 それでも弾道は直線的で単純だし、隙間は意外と多―――っ!? 「なっ……!」 真横を通り過ぎようとしていた弾が、一瞬のうちにその動きを変え、背後へ流れていった。 慌てて眼前に意識を向けると、先程避けたはずの弾が、こちらへ迫っていた。 弾幕が……逆流した? 違う、止まったのか! 正面には弾のカーテン。 後ろからは、第二波が放たれている。 前後からの挟撃弾幕……! 結界を全力展開して突破……駄目だ、この密度を立て続けに受けたら破られる。 気合い避けとピンポイント結界……これもこの数じゃ捌き切れない。 でも、この弾幕を避けられれば、相手だって突っ込んで、無事じゃ済まないはず。 それなら無理をしてでも、まとめて避ければっ! 「術式展開スペルセット……重力加速グラビティブースト!」 ガクンと、一気に高度が下がる。 通常の飛行制御じゃ行えない、急激な軌道変更。 猛烈な速度で近付く湖面。ここで止まれば、おそらく狙い撃ち。 また前後から挟まれて、詰まれて終わり。 急上昇するような魔法は……なくはないけど、魔力が相当キツくなる。 「術式並行展開パラレルスペルセット――」 魔力がキツくなるのが同じなら、ここで何とかする方がいい。 「慣性置換モーメントスライド・方向転換ターンベクトル!」 落下の勢いを全て湖の水に置き換え、それでも逃がし切れない勢いを、方向を変えて前へ飛ぶ力に変える。 背後からは、空高く水柱が立っていた。 あれで沈んだと勘違いしてくれればいいんだけど。 とりあえずは、時間稼ぎくらいにはなるだろう。 「あ、あなた…何て無茶を……!」 「やっぱ、バレてましたか?」 「同時魔法は高等技術よ。 ……扱えても、術者の負担は相当なものになるわ」 彼女の言う通りだ。 魔力の使い過ぎなんだろうけど、あまりスピードは出せそうにない。 それに……もう自分の分の結界は張れそうにないから、背中とかが凄く寒い。 「あなたは魔理沙とは違って、魔力が多い訳じゃないわ。 魔理沙の無茶を真似しようだなんて、思わない方がいいわよ」 「必要がなきゃ、無茶なんてしませんってば。極力控えますけど、それじゃ駄目ですか?」 「控えるって言葉は、するってことと同意よ。……言っても聞かないのは、魔理沙に似たのかしら」 「師匠ほどじゃないと思いますけど……。さっきの相手、撒けましたか?」 弾幕が展開されている気配はないものの、追って来られてたら困る。 もう魔力の余裕はないし、感覚強化インスピレーションも掛け直せない。 離れた相手の魔力感知があまり出来ないから、自分より彼女の方が目になるだろう。 「……追って来てる様子はないわね。少なくとも、私が解る範囲でだけど」 「なら、十分ですね。……文句、言ってもいいですよ」 やむを得ない弾幕ごっこだったにせよ、庇うために抱きしめたのは……色々責められても仕方ない。 むしろ、少しでも邪心があった分、責められた方が後ろめたい思いもしなくて済む。 「別に文句だなんて……そもそも私が魔法を使えれば、撃退も出来たし…。 無茶して守ってくれたんだから、文句よりも礼を言うわ。ありがとう」 「……嫌じゃなかったんですか?」 「仕方ないことを怒ったら、それこそ仕方がないじゃないの。それに…その、暖かいし…」 意外だった。 てっきりいつものジト目で文句言われるか、最悪フォレストブレイズで燃やされるかくらいは考えてたけど。 「お咎めなし、ですか…」 「咎めてほしいなら、相応の権利は行使するわよ?」 「……お仕置きとかなら勘弁してください。 飛べなくなりそうですから」 流石にしないだろうけど、一応は念を押しておく。 今なら単発の狙い弾で落ちる自信がある。それほど魔力が残ってない。 そりゃ、魔法が使えない彼女が、弾幕張るとかまでは出来ないだろうけど。 「そんなことしないわよ。じゃあ、1つだけいいかしら?」 「……弾幕と無茶な用件意外なら、何でもどうぞ」 「自分は無茶するくせに…まあいいわ。その、さっきの答え……聞かせてくれる?」 私は知らないことがあると、本で調べる。今まではそれで通用していた。 知識の名を持つ私でも、恋に関しては無知だった。だから、今まで通り調べた。 でも、本に載ってはいたけど、表現が抽象的で、よく解らなかった。 だから、魔理沙に相談してみようと思った。 マスタースパークは恋符。先入観を持つのはいけないけど、多分関係があるのかも。 妹様の恋の迷路も、関係があるかもしれないけど……禁忌に触れずに済むなら、それに越したことはないし。 そう思って、魔理沙と待ち合わせたのが今日。 ……それなのに、まだ準備不足なのに、私は聞いてしまっている。 以前の鬼騒ぎの時も、あらかじめ用意してから行動に移していたのに……私らしくない。 頭では、こんなに解っているのに。 「その……」 「……っ」 不安が酷くて、いつもの自分を保つのに精一杯のくせに。 ――拒絶されたら、泣き出してしまうかもしれない。 それくらい好きなのに、自分から伝えられない。なんて臆病なんだろう……。 「俺は、魔法使いとしても人としても、まだまだ未熟者です。 スペルカードも扱えないし、自分の分も解らずに背伸びして、無茶をやるひよっこです。 ……でも、それでもいつか、一人前の魔法使いとして、パチュリーさんの力になりたいんです」 「……どうして?」 「勝手かもしれませんけど、好きだから…です」 それが、望んでいた答えでも、私はどうしていいのか解らなかった。 「わ…私は……っ」 気持ちを伝えたいのに。私も応えたいのに。 力になりたいって、好きだって言ってもらえて、嬉しいのに。 どうして…言葉が出てこないの? 出てくるのは涙だけ。 彼に見せまいと、私は彼の胸元に顔を押し付けた。 「……勝手なこと言って、すみません」 謝らないで。そんなこと言わないで。 心で彼への謝罪を呟きながら、私は彼の温もりの中に沈み込んでいた。 「パチュリーさん……」 時折しゃくりあげるように泣いていた彼女は、今は泣き疲れて眠ってしまっている。 レミリアさんに吸われるか、粉々にされるか。咲夜さんには斬られるか。小悪魔さんなら……どうするだろ。 女の子を泣かせた罪は重いと言われるけど、伝えるだけ伝えたから、後悔はしていない。 そろそろ、紅魔館に着くはずだけど……。 「あ、パチュリーさ……えぇぇぇっっ!?」 「め、美鈴さんっ!パチュリーさん寝てますから静かに!」 「だっ、だってその格好……」 「事情はちゃんと話しますから、落ち着いてください。お願いします」 意外と紅魔館に近付いていたらしく、あっさり美鈴さんに見つかってしまった。 激しく誤解……なのかどうかはさて置いておいて、相当取り乱してたけど、湖でのいきさつを話したら落ち着いてくれた。 ……泣かれたくだりは省略したけど。 うん。話して解ってくれる人って、幻想郷ではやっぱり貴重だな。 そして今、俺は小悪魔さんに連れられて、図書館内を歩いている。 仕事中の美鈴さんに代わり、パチュリーさんを自室まで連れていくということで、館内に入れてもらったのだ。 ちなみに、色々周囲の目が気になるので、パチュリーさんは背負い直した。 ……後で、美鈴さんにはコッペパンでも持って行こう。 「熟睡なさってますね……」 「風邪ひかれたら困りますし、ずっと森羅結界張ってたんですよ。外は相当寒かったんで」 「そうなんですか?私はずっとここに居ましたから…。あ、お部屋はこちらになります」 案内された彼女の部屋は、よく片付けられていて、少し寂しく見えた。 栞を挟まれた読みかけの本が数冊置いてある意外は、本棚がやや多いくらい。 ……師匠の部屋とは、まるで正反対。本人の前では言えないけど。 壁際にあるベッドに、彼女を降ろ 「んっ……」 「ぐぇっ」 ……そうとして、チョークスリーパーを決められた。 いや、まあ。離してくれなかっただけなんだけど。 「あの……顔色、悪いですよ?」 「ギブアップしますから助けてもらえるとすごーく助かります」 「あ、そうですね」 きっと、小悪魔さんも悪気はないんだろうなぁ……。 幻想郷の人の会話は何かズレてるけど、それがこっちの普通なのかもしれない。 小悪魔さんに手伝ってもらって、パチュリーさんをベッドに寝かせたのは、それからしばらく後のこと。 起きてるんじゃないか、とも思ったけど、やっぱり彼女は眠っていた。 ただ……その寝顔は、あまり安らかじゃない。 不安そうな、悪夢でも見てうなされているのかもしれない、そんな寝顔。 「顔色、まだ悪いですよ。 薬でも、お持ちしましょうか…?」 「……え?」 「だ・か・ら、顔色悪いですよ。ほら、鏡見てください」 少し怒ったように、強引に手鏡を渡された。 見慣れた自分の顔……だけど、少し疲れてるだろうか。 「典型的な、魔力を使い過ぎた際の症状ですよ。 パチュリー様が心配なのは私もですが……ご自分の心配もなさってください。薬、持ってきますね」 これが、魔力を使い過ぎた影響だろうか。 師匠のスパルタ修行の後で、ボロボロになった時よりは幾分マシだけど……。 ……試してみるか。 「術式展開スペルセット……」 魔力を集めて、簡単な魔法を組み立てる。 前はともかく、今はもう失敗することがないはずの初歩の初歩。 なのに……。 「――術式取消スペルキャンセルっ!」 不意に襲う目眩と頭痛。 身体に力が入らず、床に膝を着いてしまう。 「は、はは……やっぱ、無茶はするもんじゃないですね……」 「そうね……その調子じゃ、帰るのは無理そうね」 ぽん、と、頭に乗せられる手。それだけで、頭痛が嘘みたいに引いてくれた。 「すみません、起こしてしまいましたね」 「何やってるのよ……もう。 魔力は分けてあげたけど、まともに魔法が使えるのは…そうね、半日以上休んでからね」 今から半日……となると、明日の朝くらい。そうでなくても、夜間飛行は師匠に止められてて、やったことがない。 話によると、人を襲う妖怪は夜によく出てくるとか。 「今日は泊まっていくといいわ。 レミィと咲夜には言っておくから、どこか空いてる部屋を使わせてもらって」 「……いいんですか?」 「魔理沙も言ってたじゃない。帰れなかったら泊まってこい、って。 無茶させてまで帰すようなことはしないわよ」 さっきまでの、泣き疲れていた彼女とはまるで別人だった。 いつも、図書館で本を読んでいる時の、いつも会う時の彼女。 ぬるま湯のような、友人としての仲でも、好きなことには変わりはない。 ……言ってしまった以上、そんな関係も壊れてしまうと思っていた。 でも、彼女はこうして接してくれている。それが嬉しかった。 「じゃあ、ありがたく泊まらせてもらいます。 ……片付いた部屋なら、埋まる心配もないでしょうし」 「どんな部屋で寝てるのよ……」 「師匠が色々な物持ってくるから、俺の部屋まで占拠されてるんですよ」 彼女が望まないなら、自分はきっと、現状で満足すればいいんだろう。 彼女は……本当に、いい人だから。 「お待たせしました。お薬を……あら、パチュリー様。起きてらしたんですか」 「ええ。……相変わらず、魔法は使えないけどね。 彼、今日泊まっていくから、咲夜に言ってどこか空いてる部屋を使わせてあげて」 「はい、かしこまりました。 咲夜さんに聞いてきますから、飲んでおいてくださいね」 小悪魔さんは、俺に錠剤の入った瓶を渡すと、また出ていってしまった。 ずしりと重く、牛乳瓶の1.5倍はありそうな瓶に、色とりどりの錠剤が詰まった薬瓶……。 「……何錠飲めばいいんですか?」 「妖精は半分。人間なら1瓶。それ意外なら3倍ね」 「……冗談ですよね?」 「もちろんよ」 楽しい時間はあっという間に過ぎ、彼は咲夜に連れていかれてしまった。 「はぁ…」 本を読む気にもなれず、読んだ所で頭に入らず、かといって眠ろうと努力してはみるものの、半端に寝たためか寝付けなかった。 そんなこんなで、天井を見つめたりしながら、寝返りをうってみても、眠気は訪れない。 普段、寝るのを惜しんで本を読んでるんだから、こんな時くらい素直に眠れてもいいじゃない。 静かな夜。こうもすることがないと、また彼の事を考えてしま……。 ……いけないいけない。 考え過ぎると、堂々巡りを起こしてしまう。 彼の気持ちは聞くことが出来た。 私の気持ちははっきりしてる。 問題なのは、私がそれを伝えられないこと。 結論はもう出ているのに、解決策だけが見つからない。 ――あんなことがあったから、いつものように話すことはもう出来ないんじゃないか…って考えてた。 そうでなくても、少しぎくしゃくした関係になってしまう…くらいは予想してた。 でも、彼は普段と変わらず私に接してくれたから、私も冗談を交えて接することが出来た。 そんな彼の優しさが、とても嬉しかった。 「……あ」 本当に、気付けば彼のことばかり考えてる。 「恋の病……ねぇ」 ちょっとだけ、本に書いてあったことが理解できるような気がした。 「そうそう。パチェを見てると、本当にそんな感じね」 突然の声。 振り向くと、ドアの所にレミィが立っていた。 「言っておくけど、ノックもしたし、ちゃんと呼んだわよ。 明かりが着いてるから、起きてるとは思ったけど、ね」 「そ、そう……」 こんなに静かな夜なのに、聞こえなかったの…? はぁ……重症かも。 「ふふ。恋をすると難聴になるのかしら?」 「きっと音速が遅くなるのよ」 「なるほどね。 春が集まった冥界は音速が遅いらしいから、パチェもそういうことね」 笑顔のまま、レミィはこっちに歩いてくる。 からかいにでも来たのだろうか。 「それとレミィ。正しくは『恋は盲目』よ」 「あら。じゃあ夜雀の歌でも聞いて鳥目にでもなる? ……そういえば、鳥目で春っぽい霊夢は、恋でもしてるのかしら」 鳥目に関しては、本人は否定してるけどね。 ――って。そうじゃなくて、色々まずい。こういう時のレミィは、絶対に何かある。 伊達に付き合いが長い訳じゃないから、それくらい解ってる。 「何か用があって来たんじゃないの?」 「なくても来るけどね。 聞いたわよパチェ。私が寝てる間に、人間の男を連れ込んだんですって?」 え……連れ込んだ? 「おぶられたり抱き合ったり……とか、色々聞いてるわよ。パチェもスミに置けないわね」 「ああああのねレミィそれは誤解で成り行き上仕方なかったというか偶然そうなったわけで私達はまだそんな仲じゃゴホゴホっ!」 突然の胸の苦しみに私は身体を折った。いつもの喘息だ。 「ほらほら落ち着いてパチェ。誤解があるなら、ゆっくり教えて頂戴」 ふと思う。この苦しみのうち、一体どれくらいが、彼に関する苦しみなんだろう。 彼と一緒に居られたことが、 好きだって、力になりたいって言ってもらえたことが嬉しいのに。 離れていて、会えないのが寂しいのに。 想いを募らせることは切なくて。 なのに、伝えられないのが……苦しくて、辛い。 「……落ち着いた?」 「うん…」 身体が落ち着いてから、私はレミィに今日の出来事を全部話していた。 レミィの激しい誤解を解く、というのもあったけど……ただ、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。 「……その時言っちゃえば、楽だったんじゃない?」 「だって、言葉が出なくて…うぅ」 レミィにつつかれた所が、私の痛い所。 嬉しかったけど、口には出せなかった私の気持ち。 「でも、言うチャンスは沢山あったはずよね。どうして――」 言わなかったの?と尋ねられて、答えに詰まった。 泣いてたから言えなかった……だったら、紅魔館に戻ってからなら言えたはず。 拒絶されるのが恐かったから……前はそうだったけど、今はもうそんな心配はないはず。 言えなかった理由は、きっとそんなのじゃない。 きっと私が意識していない、そんな理由。 「……ごめん、はっきり言えない」 「じゃあ、今から彼の部屋に夜這いでもかけてきたら?」 ―――――っ!? さらりと、とんでもないことを言われた気がする。 私がその言葉の意味を理解するまでに、どれくらいかかったかは解らなかった。 「ななななななにを言い出すのよ―――!?」 「あら、言葉が違ったかしら? 確か、パチェが持ってた厚い本に、『言い寄る』って意味の言葉だって……」 求婚するって意味もあるんだけど……その、うぅ…。 「まあ冗談は別にして、まずは理由をはっきりさせましょうか。私がこれから質問するから、ちゃんと答えてね」 「う、うん」 私ひとりで考えてても、一向に答えが見付からない。 だから、レミィの質問が糸口になる可能性は、十分にある……と思う。 「じゃあまず、彼のことは好き?」 「うん……」 そうじゃなきゃ、こんなに悩んだり苦しんだりしない。 「彼のこと、信じてる?」 「魔理沙よりは、まぁ…」 「……パチェも言うわね」 未熟な所はあるけど、持ち出さないでほしい本は借りて行かないし。 無茶はするけど、守ってくれたし。 「じゃあもし、私が彼の血を欲しがったらどうすr」 「絶対止めるっ!」 反射的に、私は叫んでいた。 レミィも驚いていたけど、私も驚いた。 私がこんな大声を出せるなんて、知らなかった。 「ご、ごめんレミィ。でも、やっぱり……取られたくないから」 「ふふっ。魔理沙に言ってる『持ってかないでー』くらいじゃ、私は止められないわよ? でも、パチェにとって、それくらい大事な人だってことね」 「……うん」 でも、本当にレミィが彼の血を欲しがったら……? 外の世界には献血っていう、血が足りない人に血を分ける制度があるらしいし。 彼がそんな風に考えてOKして、レミィが彼の首筋に噛み付いて……。 ……日と水のスペルカード、増やそうかしら。 「でもまぁ、咲夜のを吸い過ぎたら、彼も少し味見してみようかしらね」 ……やっぱり、増やして合成しなきゃ。 確か外の世界の本に、参考になりそうな物が載っていたはず……。 「じゃあ次の質問。彼と一緒にいると楽しい?」 「楽しいし嬉しいけど……安心する、かな。逆に、いないと寂しくて…」 本当なら、ずっとずっと側にいたいのに…どうして? こんなに想っているのに、言い出せない自分。 私を押しとどめているのは……何? レミィは、さっきまでの意地悪な笑顔で、そんな私を眺めてる。 これは私の感じたことだけど、と断ってから彼女は口を開いた。 「今の関係が嬉しかったから、今まではそれでよかった。 そして、好きになってしまったから、伝えたい。 ここまではよかったけど、伝えたらどうしても今までの関係から変わってしまう。 彼もパチェが好きなんだと解って、失恋の心配はなくなった。 だけど、まだパチェは躊躇してる。それは、どうしてかしら?」 レミィの言ってることは、大筋で正しい……と思う。 大事なのは、その先。 私が気持ちを打ち明けられない理由。 それは―――? 「私が思うに、パチェが知らない『恋人』という関係。 それを恐れてるんじゃない?」 「……え?」 「パチェは本で調べたり、前もって準備をしてから行動するわよね。 知っていることが前提だからそういうことが出来るけど、逆に知らないことや本で学べないことだったらどうかしら?」 本で学べなかったこと。 ……あの鬼騒動の時は、次の宴会まで時間がなくて、調べることが出来なかった。 仮に時間があったとしても、蔵書の中に鬼に関する書物があったかは疑問だけど。 ただ、結果的には原因も突き止められたし、豆をぶつける魔法の作成も出来た。 じゃあ、今回は? 本で調べることは出来たけど、私があまりそれを理解出来ていなかった。 少なくとも、彼に拒絶されるという、最悪の事態はないことは解ってる。 ……でも、その先が解らない。だから私は動けない? 「経験も知識のうち、ということよ。……まあ、こういう答えは自分で出すしかないから、私が正しいとは言わないわ」 「でも…参考にはなるわ。ありがと、レミィ」 「私は運命を操れるけど、運命を啓くのはその中で生きる者達よ。パチェの辿る運命に、よい月があることを祈ってるわ」 目の前のレミィの姿が、一瞬で大量の蝙蝠に形を変えて飛び去る。 ……私は、私が思ってる以上に、色々な人から応援されているのかもしれない。 だから私はきっと、その応援に、彼の想いに、応えなきゃいけない。まだ朝までは時間がある。 例え、一晩かかってでも……気持ちの整理、つけなきゃね。 目覚めると、朝だった。 幻想郷に来てから、こんな静かに朝を迎えるのは初めてかもしれない。 師匠に叩き起こされたり、実験の爆風で吹っ飛ばされたり、そんな朝ばっかりだったし……。 屋敷は静まり返っている。 レミリアさんは吸血鬼だから、紅魔館は夜の方が活気があるのかもしれない。 静かに眠れたおかげか、魔力はかなり戻っている。 師匠の所までくらいなら、普通に飛べそうだ。 いきなりいなくなるのも失礼だし……帰る前に、パチュリーさんにお礼くらい言っていこう。 昨日小悪魔さんに案内されたときは、道順を暗記する自信はなかったけど、何とか図書館まで辿り着くことが出来た。 ……まあ、たまには勘に頼るのもいいってことで。 図書館内に人影はない。 パチュリーさんは部屋に居るのかもしれないけど……まだ寝てるかな。 勝手に部屋に入るのも悪いし、起きて来るまで、魔導書でも読ませてもらおうっと。 『いいかパチュリー。あいつに対して有効なのは、ずばり《押し》だ。 勇気を持って押し切れば、きっとあいつもイチコロだぜ』 『あれ……魔理沙?何の話?』 『まぁ簡単に言うと、押しても駄目なら 押 し 倒 せ っ !』 「……?」 気が付くと、朝だった。 ……日が出てから少し経ってるくらいね。結構眠っていたのかも。 夢の中で、魔理沙がまたとんでもないことを言っていた気がする。 レミィといい、魔理沙といい、こういう……その、きわどい言い方は止めてほしいんだけど。 ――彼、起きてるかな。 もう、知らないことなんて恐くなんてないから。 きっと言えれば、胸の切ない痛みも消えるはずだから。 ベッドから出て、ドアを開け放つ。 ……うん、小悪魔か咲夜を捕まえて、彼がいる部屋へ――。 意気込んで、踏み出した私の書斎には……彼がいた。 本棚の近く、いつも座ってる席で、真剣な眼差しで本を読んでいる。 声をかけづらいくらい集中したその横顔に、不意にドキっとした。 他者を寄せ付けないような、強い集中力が生み出す雰囲気。 それは、心理的な結界とも呼べるものなのかもしれない。 どれくらいそうしていたか解らないくらいの時間の後、彼は大きく息を吐くと、その集中を解いた。 「あ……パチュリーさん、おはようございます」 「お、おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」 「ええもう、魔力も大分戻りました。本当にありがとうございます」 う……やっぱり彼の前だと、いつもの自分を装ってしまう。 言おうって、伝えようって決めたのに、決心が鈍ってしまいそう。 「別に、お礼なんて……」 恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。 恥ずかしがらず、迷わず言えた彼に比べれば、私は……。 「そんな、いいですってば。 これから帰りますんで、小悪魔さんや咲夜さん達に宜しく伝えて頂けますか?」 か、帰っちゃうの? 「ええ、解ったわ。それと……」 動揺する心を抑えるのも大変……だけど、今日を逃す訳にはいかない。 決めた覚悟は、いつ揺らぐか解らない。 それに、彼は(主に魔理沙が持ってった)本を返しにくるだろうけど、いつ来るかなんて解らない。 それまで……この切ない気持ちのまま過ごすのは、きっと耐えられない。 だから―― 「門まで見送るわ。それくらいはいいわよね?」 ――有無なんて言わるつもりは、最初からなかった。 「あ、バチュリー様……と……えーと…魔理沙2号さん」 「……お勤めご苦労様です、中国さん」 目には目を。歯には歯を。あだ名にはあだ名を。 チルノにつけられたあだ名で呼ばれるのは嫌なので、美鈴さんの痛い所で返す。 特に、師匠の2号……て意味に聞こえる辺りが特に。 「うぅ…昨日は名前で呼んでくれたじゃな「じゃあちゃんと俺も名前で呼んで下さい」……ごめんなさい」 ……名前、やっぱり忘れてるな。 でも、俺だってあまり名前で呼ばれてないけど、美鈴さんみたいにはならない。 前に何かあったんだろうか。 「……雑用係に降格かしらね」 「そ、そんなぁ~……」 パチュリーさんの一言で、面白いように反応する美鈴さん。 ……もしかして、玩具にされてるのか? 「それはそうと美鈴。私から貴女に、最重要任務を与えるわ。……これが出来なきゃ、本当に雑用係ね」 「えぇっ!?は、はい……」 「指示は単純だから1度しか言わないわ。15分、ここ以外の場所で休憩してきなさい」 それが最重要任務? そう思ったのは美鈴さんもだろう。 ただ、何かに気付いたのか、突然 「了解しましたっ♪この紅 美鈴、その任務受けさせて頂きますっ!」 とのたまい、素敵な笑顔で走り去って行ってしまった。 ……休憩が貰えて嬉しかった、ってことにしておこう。うん。 美鈴に暇を出し、門の辺りには彼と私の二人っきり。 湖から吹いてくる風は冷たいけど、彼がまた森羅結界を張ってくれた。 昨日の今日で無理はさせたくなかったけど、私は彼の優しさに甘えてしまった。 えーと……結界の範囲を狭めれば、彼の負担もきっと軽くなるはずよね? 「え……!?」 無防備な彼の背中に抱き着いて、身体を密着させる。 「結界だけより、この方がいいのよ」 触れることで感じられる彼の体温。やっぱり、結界より暖かい。 ……言い訳だって、解ってる。恋は……理屈じゃないから。 ――ただ、こうしたかっただけなんだから。 「昨日の返事……言えなくて、ごめんなさい」 「そんな、俺は……」 結界の境界が、揺らいでいるのが解る。 動揺したり、心が不安定になれば、魔法だって不安定になるし、私みたいに使えなくもなる。 ……彼は私の気持ちを知らないはずだから、彼の不安は、相当なものだったんだろう。 それでも、私以上の不安の中で、紅魔館まで飛んで来て、今もこうして結界を維持している。 確かに彼は、魔法は未熟で無茶ばかりする半人前かもしれないけど、気持ちに関しては私以上に強い。 そんな所にも、私は惹かれていたのかもしれない。 「パチェ、って呼んでもいいわよ。レミィだって……ずっとそう呼んでるんだから」 「……いいんですか?」 「それと敬語も使わないで、普通にしてていいわ」 顔全体が熱い。心臓は早鐘を鳴らして、鼓動は際限なく高まっていく。 切ない気持ちが血液に乗って身体中に回って、また涙が出てしまいそうになる。 ……でも、ここで止める訳にはいかないから。不器用な言葉だって、くしゃくしゃな表情だって構わない。 ――マスタースパークがなぜ恋符なのか、解った気がする。 自分の弱さや臆病な所も全部隠さずに、真っ直ぐに想いを伝える……そんな所が、マスタースパークに、魔理沙自身に似ている。 確かに私は魔理沙じゃないし、マスタースパークも撃てない。 けど、それでも……っ! 「私だって…好きだから……っ」 それからしばらく、私の時間感覚はおかしかった。 ……咲夜に時間を止められたのか、単に私が解らなかったのか。 気付けば、彼の背中に抱き着いていたはずが、彼に抱きすくめられていた。 「よかった……」 「……余計な心配、させたわね」 「余計なんかじゃないですよ。 そりゃ、覚悟はしてましたけど……」 えーと……確かに、さっき言ったわよね。 「だから敬語なんて、使わなくていいのに……」 「すぐには無理ですって。パチェ、これから慣れる……じゃ、駄目ですか?」 あ、名前……。 「嬉しいけど、それだけじゃ駄目よ」 「レミリアさんと同じように呼ぶのも、結構恥ずかしいんですけど……。時間、もらえませんか?」 「……そうね。少し、かがんでもらえるなら」 こういう言い方は、卑怯かもしれない。私のわがままでしかないし。 それでも私は、かがんだ彼の首に手を回し、おもいっきり背伸びして----。 ごすっっ!! 「むきゅぅ……」 「ぱ、パチュリーさん…平気ですか?」 突然、零距離からのヘットバット。 帽子も落としてしまい、紫の髪が風に揺れる。 俺は師匠の修業で痛いのは慣れてるけど、仕掛けた彼女の方が痛そうだ。 ……あ、呼び方間違えてた。 「そ、その、私……ごめん。本に書いてあることくらいしか知らないし、初めてだから……」 顔を真っ赤にして、目元に涙を浮かべながら謝るパチュリーさん。 彼女がしようとしたのは、やっぱり……。 「気にしてませんって。それより、よければ……目、閉じてもらえますか?」 「う、うん……ありがと」 恥ずかしながら頷いた彼女は、俺に身を任せて目を閉じる。 そして俺達は、冬の高い空の下、唇を重ねた。 ……ただ、後日話を聞いた所では、何人かが覗き見していたらしいけど。 「あの、咲夜さん。もう30分近く経ってますけど……」 「私の時計では、まだ14分と48秒よ。お嬢様が中庭から戻って来るまではね」 「うぅ。出て行けないのは解りますけど……サボってるみたいで、ちょっと罪悪感が」 「臨時の休憩よ。そう思いなさい。出て行ったら、雑用係に降格だからね」 「はい……。あ、そうでした。咲夜さん、彼の名前……何でしたっけ?」 「春……じゃなくて、朝ですよー」 「……霊夢、随分と変わったな」 「何言ってるの。寝言は寝てから言うものよ」 魔理沙が目覚めると、いるはずのない妖精がそこにいた。 春を伝えて、消えていく妖精、リリーホワイト。 その彼女が何故ここに?という疑問はもっともなのだが、 「じゃ、2人とも待ってなさい。朝御飯作るから」 その話は、朝食が終わるまで持ち越された。 「で、リリーが何でここに?」 「えっと……春なんですか?」 「まだ冬だぜ。早く春が来てほしいんだけどな」 魔理沙の言葉は本心からのもの。 寒い冬は、彼女と一番相性が悪い季節だ。 「……あ、そっか。確かに春かもしれないわね」 「なるほど。霊夢の頭がか」 何かに思い当たった霊夢に、魔理沙の口は言葉をこぼしてしまった。 それを彼女は、すぐ後悔することになるのだが。 「魔理沙。夢想封印とエクスターミネーション、どっちがいい?」 「……スマン」 笑顔ながらも霊夢の凄む口調に、習慣的に魔理沙は頭を下げた。 知らぬは間のリリーのみ。 「冬なのに、春なんですか?」 その、リリーとしては当然の質問に、霊夢はさも当然のごとく応える。 「そうそう。冬だけど春よ。あなたがいるのがその証拠だもん」 「私が…証拠ですか?」 自分を指し、首を傾げるリリー。そんな彼女に、霊夢は断言する。 「あなたが伝えてくれたからね。そのうち、その冬の中の春を見せてあげるわよ。 さておき……結局、紅魔館にお泊りみたいね。レミリアに吸われてなきゃいいけど……」 「あいつが吸われそうになったら、パチュリーが『持ってかないでー』って言いそうだな」 レミリアの服の裾に掴まり、引きずられながらも粘るパチュリーと、レミリアに押されて困惑する自分の弟子。 魔理沙は、そんな3人の光景を思い浮かべて苦笑した。 「えっと、春をですか?」 「春を持ってくのは幽々子だけで十分よ…って、あなたは会ってないわよね」 「集めたのは妖夢だけどな」 話が脱線しても、誰も戻そうとしない。春が2人もいれば、伝染もするだろう。 そんな彼女達をもっと脱線させたのは、外からの声だった。 「ごうがーい、号外でーす!」 「まだ寒いのに、あいつもご苦労だな」 呑気に呟く魔理沙。それとは対照的に、霊夢はやれやれと言わんばかりに立ち上がった。 「お、一部貰ってくるのか?」 「境内にばらまかれると、掃除が大変なのよ。適当に貰って、他に行くように言ってくるわ」 それだけ言うと、彼女は冬の青空の下へと飛んでいった。 ほどなくして、うっすらと聞こえてくる弾幕音。 それもしばらく経って止み、霊夢は新聞片手に戻って来た。 「言って駄目なら実力行使、か?」 「魔理沙が言うことじゃないでしょうに。はい、新聞読む?冥界なんかより音速は早そうよ」 差し出された新聞に、魔理沙は目を落とし……。 「……音速が早過ぎるな」 とだけ呟いた。 「春ですよ~……暖かい春ですよ~…くぅ」 「……コタツは春じゃないわよ?」 「新聞紙でもかぶせてやるか? 少しは春度が増すぜ」 《七曜の魔女、熱愛発覚!?》 記録的な大雪の昨日、紅魔館の魔女パチュリー・ノーレッジさんの熱愛が発覚しました。 お相手は、以前当新聞でも取り上げた、外界からの迷い人○○氏(現在霧雨亭在住) 情報提供者の目撃証言によると、博麗神社へと出掛けていたパチュリーさんが、彼に抱きしめられながら飛行していたとのこと。 また、彼は紅魔館へパチュリーさんを送り届け、そのまま一夜を明かした、との情報も寄せられています。 フィルム切れという致命的なミスを犯してしまいましたが、私も翌日の紅魔館前、お二人のキスシーンを一部始終拝見させて頂きました。 お二人の仲はこれで確実だと思われます。 しかし、気になる関連事件が一つ。 昨日湖の上を二人が飛んでいた所、チルノちゃんが二人にいきなり弾幕を仕掛けたそうです。 (3面、チルノちゃん観察日記に弾幕詳細) 実力にこそ差はありますが、彼とチルノちゃんは弾幕のライバル関係と言ってもいいかもしれません。 ここから先は私の推測ですが、真っ向から正々堂々勝負を挑むタイプのチルノちゃんが、不意打ちを仕掛けるとは私にはどうしても思えません。 ですが、お二人の熱々ぶりに嫉妬したチルノちゃんが、その感情に任せて弾幕を仕掛けた……とするなら、全てが繋がります。 また、この三角関係の事実に対して、パチュリーさんの友人にして彼の家主(兼師匠)の霧雨魔理沙さんが、 果たしてどのように状況を掻き回すのかも注目です。 今年は雪が多く、寒い冬になりましたが、どうやらこれからは熱い冬になりそうですね。 文々。新聞は、この恋に関する様々な情報提供をお待ちしています。 情報提供は私、射命丸までお気軽にどうぞ。 ――それから、数年後 「……出来た」 工房で、炉から出した品を見て、ようやく俺は一息つけた。 良品を作ろうとすれば、材料も良い物を選ばなければならないし、手法も難解になる。 ましてや、人生最高となる品を作ろうとすれば、通常の仕事とは一線を画す難易度になる。 何度も何度も失敗し、その果てに辿り着いたその境地……。 ……う、眠気が。 「……やば。少し休憩…」 パチェには、何度も無理するなって言われてたのに。 この癖は、死んでも直りそうになさそうだ……。 数年前から、俺は師匠の家を出て一人暮らしをしている。 卒業なのか破門なのか、はっきりしないままだけど、師匠との縁は色々な意味で切れてない。 修業の結果、技術だけは師匠に追い付けるようになったものの、肝心の魔力量は今も相変わらず。 そのため、今は紅魔館の近くの廃屋を改装して、魔導具職人として生活している。 職人と言っても、ほとんどが独学なので、お世辞にも腕が良いとは言えないだろう。 それでも、パチェの応援と協力もあって、何とか暮らしている。それが本当に、心強い。 ……ん。少し寝過ぎたかも。 眠気で霞む思考に喝を入れ、少ない荷物をまとめて外出の準備を始める。 緊急時と、スペルカード用を兼ねた携帯魔力炉。 パチェから貰った、補助用の魔導書。 仕事用の道具一式。 そして、さっき完成したばかりの最高傑作……。 忘れ物は多分ない。 フランと遊ばされるなら、戦闘用の魔導具一式くらいは持たなきゃいけないだろうけど……あいにく、全品修理中。 まだ日は出てるし、そんなに強い妖怪も出ないから、紅魔館に行くくらいなら十分だろう。 外は相変わらずの銀世界。視界こそ良好だけど、北風は切り裂かれるような錯覚すら覚える冷たさ。 森羅結界を展開して、俺は冬空へと飛び立った。 「だーかーらーブレイジングスターなんて使ったら壊れるって、前に言ったじゃないですか」 「仕方ないだろ、私も背に腹は変えられなかったんだ。ついでだし、今度は壊れないように直してくれ」 ……パチェの図書館で俺は、師匠のホウキを直している。 話を聞く限りだと、美鈴さんを突破する時にブレイジングスターを使い、その反動でホウキを壊したそうな。 背に腹は変えられないって……いつまで経っても寒がりなんだから。 「ちゃんと許可貰えば、そんな強引な方法使わないで済むんですよ。 それに、俺がいなかったら、どうやって直すつもりだったんですか?」 「お前が来なかったら、本を読みながら自力で直してたぜ。 ……ちょっとパチュリーと話してくるぜ。ホウキの修理は頼んだ」 「気を遣う必要はないんですが……」 パチェは、『作業の邪魔になると悪いから…』と言って、自室に篭っている。 止める暇もなく、師匠も部屋へ行ってしまった。 別に、傍で見ていても支障はないんだけど……。 まあいいか。まずは師匠のホウキを直さなきゃ。 ……今回の報酬、何にしようかな。 「パチュリー。気を遣う必要はないって言ってたぞ?」 「いいの。私がそうしたいだけだから」 変わったな、と魔理沙は思う。 以前なら読書最優先のパチュリーが、席を外すなんてしなかっただろう。 本人はいいと言っているのに、敢えてそうする辺り、互いが互いの事を考えているのだろうか。 魔理沙は、本を読むパチュリーの横顔に目を向ける。 真剣な眼差しの中に、幸せそうな暖かみがあった。 彼が居るからか、本の内容によるものなのか。 「なーに読んでるんだ?」 「――っ!!」 魔理沙が肩越しに覗き込もうとした所、パチュリーは凄まじい勢いで本を隠した。 「……え?」 ただ、一瞬遅かった。魔理沙には、解ってしまったのだ。 「魔理沙……見た?」 「お、おう。私が見間違ってなけりゃ…」 魔理沙の沈黙で、その本がどんなものか理解されたと、パチュリーは悟った。 「あ~…何と言うか、お前も運動してたんだな」 「へ、変な言い回しはいいから。まだ確信が持てないんだけど…」 「そう思う根拠はある、ってことか」 その魔理沙の言葉で、ピタリとパチュリーは固まった。何か言おうと口をぱくぱくさせるが、言葉にはならない。 そんなパチュリーを前に、魔理沙は意地悪く笑う。 「あれから何年も経ってるからな。驚いたけど、不思議じゃないぜ?」 「そ、そうよね。本当は、霊夢に聞くべきなんじゃないかって思うんだけど……」 一度目を閉じ、息を吐いて、再び目を見開くパチュリー。 「――魔理沙。私にちょっとだけ、力を貸してほしいの」 「いいぜ。弟子の不始末だしな」 「強度を上げた分、少し使い勝手が悪くなってるかもしれませんけど」 「そうか?私が全力で使って壊れないなら、それで十分だぜ」 「……相当、使い勝手を悪くしなきゃいけませんね」 直したばかりのホウキに乗り、師匠はふわりふわりとホバリングしている。 強度は上げたつもりでも、壊れない保証はない。 元は、修業時代に俺が自分用に作ったホウキで、それを何度も改造してるから、やっぱり限界がある。 「分解して、一から新しく作り直しましょうか?」 「いや、お前が初めて作ったホウキだ。こんなレアアイテム、滅多にないぜ。ま、お前自身はパチュリーに取られちまったけどな」 「ま、魔理沙……私、そんなつもりじゃ」 「解ってるって、冗談だ。私の弟子を、頼んだぜ」 隣で座ってるパチェは、テーブルの下で、見えないようにしっかりと俺の手を握ってくれた。 その気持ちに応えるように、俺も握り返す。彼女は無言で、師匠に頷いた。 「帰られるんですか?」 「ああ。あんまり邪魔するのも悪いしな」 ……はい? 今、師匠何て言った? 邪魔するのも悪い……って。 「変なキノコでも食べたんですか?」 「私は普通の魔法使いだぜ。お邪魔虫になる気は、これっぽっちもないんだ。パチュリー、頑張れよ」 「……ええ。魔理沙、ありがとう」 ドアから出ようとして、師匠は振り向いた。 その表情こそ笑顔だったものの、どこか……怪しい。 「そうそう。今のお前にピッタリな言葉を思い出したぜ」 「な、何よ……」 柄にもなく、横でうろたえるパチェ。 知識なら師匠以上にあるだろうし、論理じゃ揺らがないと思うけど……。 ――師匠も、隠し玉か何か持ってるのか? 「『案ずるがより、産むが易し』だぜ。意味は解るよな?」 「ま、魔理沙っ!!」 「じゃあな2人共。秋を楽しみにしてるぜっ」 それこそ茹ダコの様にパチェを赤面させて、師匠は凄まじい速度で飛び去ってしまった。 ……まあ、あのくらいならホウキも壊れないだろ。 それはさておき。 「何か困ったことでもあった?」 「え、な、何でよ」 「師匠が言ってたし……パチェがそんなになるの、余程のことでしょ」 幻想郷の人々の会話は、たまに意味が解らなくなることがある。 それでも、少々言い回しが妙なだけで、深い話をしていることに変わりはない。……多分。 「……その、さっき魔理沙と話してたことなんだけど…気持ちの整理が出来たら話すわ。 いつかは、話さなきゃいけないことだから」 「ん……そっか。いつか話してくれるなら、それでいいよ」 ゆったりと、時間が流れていく。 静かな図書館は、時間が止まってしまったかのような錯覚すら覚えてしまう。 冷えた図書館の空気の中で、彼女と握りあった手が暖かい。 ――よし。 「あのさ、パチェ……渡したい物が、あるんだ」 「ふふ。それは…左胸のポケットの中に入ってる物かしら?」 「え!?」 意を決して言い出したにも関わらず、予想外の切り返しに素っ頓狂な声をあげてしまった。 それがおかしかったのか、俺の裏をかいたからか、パチェはくすくすと笑っている。 「五行のどの属性にも当て嵌まらないのに、どの属性でも助けられる物質ね。そこまで珍しい物なら、見えなくても解るわ。 ……多分、魔理沙も気付いてたわよ?」 「師匠も…?」 ああ――有り得る。 蒐集癖のある師匠は、レアアイテムに対する感性が尋常じゃないんだ。 「私へのプレゼントだと思って、取り上げなかったのかしらね」 「師匠と言えど、大人しく渡す気はないよ」 正面から力ずくで来られたら、流石に敵わないけど。 「それ、もしかして……賢者の石…?」 「いや、俺が作れたら愚者の石でしょ」 名前は聞いたことがあるけど、流石にそう易々と作れる代物じゃないだろうし。 「そんなに、自分を卑下することないわよ。創ることに関しては、私より向いてるかも」 うーん……まあ、楽しめるってことは、向いてるのかな。 パチェのおかげで、緊張も和らいだし……うん。 「あのさ、目……閉じてくれるかな」 「どうして?」 「笑われたお返し。絶対にびっくりさせるから」 「ふふっ。それじゃあ、期待させてもらうわね」 パチェは静かに目を閉じる。 寝顔のような、そんな穏やかな表情が、とても愛しい。 ――きっと、彼女と過ごす幸せが当たり前に変わる日が来て、 その笑顔さえ見慣れた日々が訪れても―― 俺はそんな日常を守って、一緒に歩いて行きたい。 だから―― 彼からの、初めてのプレゼント。 特に意識しなくても、その事実だけで、表情が緩んでしまう。 気持ちの浮つきは、抑えようとしてもどうにもならない。 態度に出てしまってるかもしれないけど、やっぱり嬉しい。 握っていた手が持ち上げられる。 指にそっと触れる、微かな感触。思わず私は目を開いた。 彼の言った通り、驚くしかなかった。 私の指に、透き通るように微かに輝く、淡い光。 「え…これ、指輪…!?」 「普通の材料じゃ、どうしても属性の相克で、パチェの魔法の妨げになるからね」 特に装飾もなく、宝石類もない、私の名前が彫られただけの指輪。 魔力を精霊に分け与え、代わりに効果を得る精霊魔法。 その妨げにならない材料は―― 「考えたわね。まさか魔力を物質化するなんて」 ――その根源に当たる、魔力そのもの。 「師匠くらいの魔力があれば、時間もかからなかったんだけど……」 物質化に、どれだけの魔力を要するかは、私は解らない。 きっと彼は、相当長い時間魔力を注ぎ込んで、この指輪を作ったと思う。 それに、私への想いも……っていうのは、ちょっと照れ臭いけど。 ただ、その、嵌めた指が……。 「その、言いたいこと…あるのよね?」 「……指輪を贈って言うことなんて、パチェだって想像つくでしょ」 「でも、解ってても聞きたいのよ。きっと、一生忘れられない言葉だから」 ちゃんと、解ってる。私は魔女で、彼は人間。 私達は、生きる時間の差があり過ぎる。 例えどれだけ多くの幸せを、彼がくれたとしても----いつか、彼が弔われてしまう時、私は幸せのしっぺ返しを受けるのだろう。 それでも、その限られた時間の中で、私達と歩いてくれるなら、その幸福を胸に、生きていくことだってきっと出来る。 共に居られなくなった後でも、歩き続けられる強さをあなたがくれるから。 私は――好きになったことを、後悔したくはないから。 「月並みなことしか言えないけどさ、俺は……パチェと一緒にいたいから。 えっと、その……パチェ、愛してる。俺と…結婚してくれないか?」 ぅ……やっぱり、正面から言われると恥ずかしい。 それでも、私の気持ちは固まってるから、もうあの時みたいに泣いたりしない。 きっと私の顔は赤く染まっていて、嬉しくて言葉も出ないけど、それでも、私が伝えられる精一杯の返事を。 ぎゅっと彼の手を握り返し、頷く。 次の瞬間には、彼に抱かれていた。 いつも変わらない、私だけの――彼の温もり。 「ありがとう……」 「パチェも、受けてくれてありがとな。 俺………師匠には何て言われるか解らないけど、パチェより先に白玉楼になんて、絶対行かないからな」 「どういう、こと…?」 だって、私は魔女なのに。それでも……私よりも生きると言うの? 「人であることにこだわらなければ、手段は結構あると思うんだけどね。蓬莱の薬だけは御免だけど」 永遠亭の妖怪兎や、吸血鬼となった人間、仙人と呼ばれる人々。 彼が話してくれた様々な可能性。それらは、人であることを捨ててでも、私と一緒に歩く術だった。 人でなくなるのは構わないの? そう聞くと、彼は迷わずこう答えた。 「人間でなくなってでも、ずっとパチェを幸せにし続けたいんだ。俺にとっては、そっちの方が大切だから」 うぅ、もう……本当に…。 「馬鹿なんだから…」 「バカで結構。どーせ魔導具のない俺は、チルノと同レベルだよ」 「そうね……確かに、そうかもしれないわね」 彼は人の身で生きて、人の身で死んでいく。 その固定概念に捕われて、私は覚悟を決めていた。 でも彼は、そんな概念を無視して、とっくに私と生きる道を見つけていた。 何が正しいのかは、後にならないと解らない。 だけど、彼の答えが間違っていたとしても、私は……。 「……じゃあ、そんなあなたに、宿題でも出そうかしら」 「うわ……この年になって、宿題出されるとは思わなかったな。注文の間違いじゃないか?」 別に間違いじゃない…と思う。 作ってほしいのは同じだから。 「別に何でもいいわよ。宿題でも注文でもお願いでも。今度は…あなたの指輪、作らなきゃいけないでしょ?」 「……あ」 外の世界の本で、読んだことがある。 夫婦の…絆の証、結婚指輪。 ――何故か、彼は固まっていた。もしかして……。 「忘れてたの?」 「…プロポーズすることでいっぱいいっぱいだったから、そりゃもうすっかり」 「……まあ。そんな状況なら、私だって緊張するから責めないけど。あまり、時間かけないでね?」 本音を言えば、私にくれたのと同じ物がいいけど、それじゃ時間がかかるし……。 「時間かけないでって…どうして?」 「実は―――」 彼の耳元で、そっと囁く言葉。 それは、驚かされた分のお返し。 彼にも原因があるんだし、それくらい……いいわよね? 「――本当?」 彼女からの思いがけない言葉に、思わず問い返した。 あまりにいきなり…って訳じゃないけど、これがとっておきの冗談とかなら、きっと師匠辺りの入れ知恵としか思えない。 もしそうなら、なまじリアリティがある分、タチが悪いんだけど……。 「さっき魔理沙にも診てもらったけど、可能性は高いわよ。……心辺り、あるわよね?」 「ま、まあ。どちらかというと、心辺りがあり過ぎr……ごめん」 久しぶりにジト目で睨まれた。やっぱり本当だ。 「そういうことだから。その、あまり時間かけると、式とか挙げられないし」 「あ、ああ。前と違ってノウハウはあるから、そんなに時間は掛けずに済むと思うよ」 パチェの言わんとすることはよく解る。向こうでも、そういう話はよくあったし……。 あまり負担にならないように、早目にしないとな。 「あなたさえよければ、私も……手伝っていい?」 これまた思いがけない、彼女からの提案。 そりゃ、パチェ程の魔力なら、俺一人と比べて相当早く作れるだろうけど……。 「……いいの?」 「あなたの想いの証が、この指輪なら――私の想いの証を、私が作ったっていいわよね?」 そう言って、パチェは笑って左手の指輪を見せる。 一緒に過ごす時間が多くなってから、彼女はよく笑うようになったと思う。 ……それに比例して、レミリアさんに睨まれたり、血を要求されることが多くなった気がしないでもないけど。 師匠いわく、初めて会った時とは比べられないくらい明るくなったとか。 ――俺は、そんな彼女の笑顔と、この日常を守って生きていく。 この身が何に変わってしまっても、 師匠達が、俺達を置いて白玉楼へ行ってしまっても、 俺はパチェの側で一緒に生きて、一緒に幸せになる。 道は永遠じゃなく、とても長いものだけど、いつかは終わる有限の道。 だから、過ごす時間を大切に、一瞬一瞬を輝きのあるものにしていこう。 「ああ――もちろんっ!」 それは、自分のために。 それは、彼女のために。 そして、まだ見ぬ未来の自分達のために。 いつか、歩いた道を振り返った時、その道を誇れるように。 「パチェ……みんなで、幸せになろうな」 「ええ、そうね……」 カシャアっ!! 「「え」」 声が、ハモった。 突然の閃光と、向こうではあまり聞かなくなったシャッターの音。 聞こえた声の方を見渡せば、本棚の間から突き出たレンズ。 間違いない、あれは……。 「文さん……覗き見とは、いい趣味ですね」 「いえ。覗き見じゃなくて、潜入取材ですよ? お蔭様で、いい写真が撮れました♪」 撮影したことで満足したのか、ひょっこりと顔を出す文さん。 正直、かなり殺気を込めて言ったにも関わらず、普通に流されて返される辺り、俺との実力差が知れるだろう。 俺の腕からするりと抜け出したパチェは、両手いっぱいのスペルカードを構えて、文さんと対峙する。 「本当に……うちの猫は、ザルばっかりねぇ…」 「美鈴さんのことですか?今日はお休みのようでしたけど」 多分……師匠のブレイジングスターを喰らったまま、ダウンしてるんじゃないだろうか。 「……まあいいわ。前はともかく、今回は侵入者だし。毎回記事にされてるし。 とっておきの魔法、見せてあげるわ!」 ちらりと、こちらに目で合図。 (行くわよ。援護してくれる?) (もちろん。俺も全力で援護するよ) 「ふふっ。じゃあ是非とも、幻想郷初の夫婦弾幕を撮らせて頂きますね♪」 あ、笑われた。 それを皮切りに、一気に魔力を開放し、何枚ものスペルカードを同時発動させるパチェ。 彼女に追従するように、手持ちの魔力炉を開放し、術の負担を肩代わりする。 代われるのは……3枚分。今更ながら、パチェの能力の高さに気付かされる。 並行して、自分もスペルカードを数枚取り出し、時間差を加えて連続発動させる。 そんな状況下でも、喜々としてカメラを構え、迫り来る弾幕を撮影する文さん。 フラッシュが焚かれ、シャッターが切られる度に、地獄の釜をひっくり返したかのような凶悪密度の弾幕が掻き消されていく。 それでも、弾幕は終わらない。流れ続ける濁流のように、絶えず俺達が展開し続ける。 ひとまず、俺達の魔力が尽きるか、文さんが被弾する頃までは。 ……結局その後咲夜さんが来るまで、疲労困憊の俺達はしっかりと文さんにインタビューされてしまい――― 《あの熱愛カップルが遂にゴールイン!?》 先日、パチュリー・ノーレッジさんと○○氏の熱愛記事を書いてから早○年。 周囲でやきもきしていた方も、行け行け押せ押せと煽っていた方もお待たせ致しました。 この度、お二人が結婚することが私の密着取材で判明しました! しかしながら、紅魔館への潜入取材だったので、完全な取材に出来ないまま逃げなければならなかったのが、心残りと言えば心残りでした。 挙式は後日、博麗神社で行われる見通しで、巫女の霊夢さんの話では『お賽銭○千円で、誰でも歓迎するわ』とのことです。 また、幻想郷の宴会好きな方々もこの期に集まり、当日は晩春の再現と言えるような大宴会になる見通しです。 参加なさる際は、お賽銭と宴会用の料理(もしくはお酒)を持参することをお勧めします。 ここで私からの注意事項ですが、新婦のパチュリーさんにお酒は飲ませないで下さい。 理由は……まぁ、言うまでもないので省略しますが、どうやら3ヵ月だそうです。 理由が解らない方は、当日の式の中で報告があると思いますので、それまで待ってて下さいね。 どうやら幻想郷には、安全もプライバシーもないみたいだ。 魔法はあっても、向こうのような便利さも、快適さもあまりない。 ――それでも、ここには幸せがある。 それは、自分で選んだ、自分が生きる道。彼女と歩む、未来への道。 幸福があるという意味なら、幻想郷はまさに楽園ということだろうか。 少なからず波乱があるにしても、俺の幸福は確かにここにある。 他の誰でもない、彼女の側に。 ・後書きのようなもの 人を愛するなら人のままで。蓬莱人を愛するのなら共に蓬莱人となるか、それとも呪縛から解き放たれるのか。 じゃあ妖怪や魔女を愛するのなら、添い遂げようと願うのなら、どのような答えを見つけるべきなのか。 ……こう書くと硬いですが、要はパチェと一緒に生きるためにはどうするか。それを考えた結果がこれです。 てゐだって長生きして妖怪化したのなら、人間が妖怪になってもいいじゃないですか。(それを仙人と呼ぶのかもしれませんが) 後書きはいつも長くなりがちなので、組み込めなかったネタだけ最後に晒して締めますね。 ・お蔵入りネタ1 「はい。あなた用の指輪、完成したわよ。 日&月符『ロイヤルダイヤモンドリング』」 「いやそれ嵌めれないから」 文花帖のスペカはものすごくタイムリーだったんですよ……。 ・お蔵入りネタ2 「ふふっ。パチュリー様のお子様……♪」 「……子悪魔。その本、読ませてくれないかしら?」 パチェよりも喜んで、たまひよとか眺めてる子悪魔とか。 ・お蔵入りネタ3 「レミィ、今すぐ彼から離れて。さもないと――」 「安心してパチェ。私もちょっと喉が渇いただけなのy」 「……そう、残念ね。 日&水符『ランドリーサイクロン -Full Auto-』!!」 ゴウンゴウンゴウン……。 「せ、洗濯機!?」 「しっかり水洗いして乾燥までするわよ」 本編で伏線張ってたのに回収できなかったからここで。 以上です。乱文失礼しました。 488
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【名前】 タレキチ 【階級】 4児のパパ 【得意なカテゴリ】 PM、特攻、敵陣潜入 【所在地】 ギリ大阪寄りの奈良。でも、のどかw 【年齢】 @3年で40かよ・・・・ 【好きな食べ物】 麺類全般、猟期は鹿を捌いて喰います。酒、ケーキ、お菓子etc・・・食べること全般が大好き 【適当に自己紹介】 どーも、タレキチですヾ(´▽`*)ゝ とりあえず、まったりのんびりどーでもいいや、が身上です お酒が入ると陽気になります 基本、人見知りします 親しい人には、「O型やろ?」と言われますが、A型です 肉は食いますが、肝は食えません 子供は9時に就寝させます えーっと、こんな感じかな・・・ よろしくお願いします(≧∇≦)ノ
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各キャラ紹介文 パチュリー パチュリー その14 ■ 各キャラ紹介文 パチュリー パチュリー その14
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キャラ名 HP 攻撃 防御 知力 射程 速度 特技 パワーゲージ スペルカード パチュリー 450 60 75 90 5 1 治癒 術式 バラマキ 5 消極的にやっつけるには スペル効果 一定時間、自パーティが移動不可能になり、攻撃力・射程・攻撃速度が上昇する。さらに、範囲内全ての敵、または拠点を攻撃する。 スペル詳細 攻撃力+70 効果時間:15c固定 拠点攻撃力ダウン 編集Ver:1.2.6 考察 特技とスペルカードが非常に噛みあったキャラ。 400というHPと速度1とに加え55の攻撃とこれでもかと採用をためらう要素で塗り固められた彼女。 しかし知力は90あり、特技も3つあるというところには価値がある。 そのスペックの扱いにくさ故かスペルはとても強力である。 移動こそ出来なくなるものの、攻撃に射程更には攻撃速度まで上がり、射程内の敵部隊すべてに攻撃する。敵部隊がいなければ射程内の拠点を殴る。 複数部隊を攻撃する強さは確かなもので、単純に攻撃回数が増えてると頭の中で変換すればその強さが分かりやすい。 しかしまとめて相手してやるぜ!と一人で敵の中央で使っても守備が上がるわけでは無いので本人のスペックもあってすぐ撤退してしまう。周りのサポートをしっかり意識しよう。 効果時間は15c固定で一見短めに見えるが攻撃速度が上がっているため意外とそうでもない。しかしこっそり拠点攻撃力は下がってしまうので相手を倒すスペルとしての運用が一番良さそうだ。 スペル自体は強力なのだが、スペックがどうしても足を引っ張るので普段の運用が試される一枚。
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東京センチュリー 本店:東京都港区浜松町二丁目4番1号 【商号履歴】 東京センチュリー株式会社(2016年10月1日~) 東京センチュリーリース株式会社(2009年4月1日~2016年10月1日) センチュリー・リーシング・システム株式会社(1969年7月1日~2009年4月1日) 【株式上場履歴】 <東証1部>2004年9月1日~ <東証2部>2003年9月18日~2004年8月31日(1部指定) 【合併履歴】 2009年4月1日 東京リース株式会社 1985年5月 日 センチュリー・グレイハウンド・リーシング株式会社 【沿革】 昭和44年7月 伊藤忠商事株式会社・株式会社第一銀行・日本生命保険相互会社・朝日生命保険相互会社の4社の共同出資により、資本金500百万円でセンチュリー・リーシング・システム株式会社を設立。 昭和44年8月 大阪営業所(現大阪支店)を開設。その後各主要都市に支店、営業所等を設置。 昭和44年8月 リース事業協会(任意団体、昭和46年10月 通商産業大臣の社団法人設立認可)に加盟。 昭和47年9月 国際案件進出のため、グレイハウンド・リーシングアンドファイナンシャル・コーポレーション社(米国)、伊藤忠商事株式会社、コンチネンタル銀行(米国)とセンチュリー・グレイハウンド・リーシング株式会社を設立。 昭和48年12月 損害保険代理店業務進出のため、ミナト・トレーディング株式会社(昭和54年12月センチュリー・クレジット株式会社に商号変更、平成17年6月株式会社C-TRYに商号変更、現・連結子会社)を設立。 昭和58年10月 人材派遣業務進出のため、センチュリー・スタッフ株式会社(平成12年10月株式会社キャリアプラザと合併、平成14年1月キャプラン株式会社に商号変更)を設立。 昭和60年4月 当社自動車リース部門を分離し、伊藤忠商事株式会社、伊藤忠燃料株式会社、大成火災海上保険株式会社とセンチュリー・オート・リース株式会社(平成17年10月日本カーソリューションズ株式会社に商号変更、現・持分法適用関連会社)を設立。 昭和60年5月 センチュリー・グレイハウンド・リーシング株式会社を合併。 平成3年1月 損害保険代理契約をセンチュリー・クレジット株式会社から引き継ぐため、センチュリー・エージェンシー株式会社(平成15年4月センチュリー・ビジネス・サービス株式会社に商号変更、現・連結子会社)を設立。 平成12年3月 伊藤忠商事株式会社からセンチュリー・オート・リース株式会社の株式を取得し、センチュリー・オート・リース株式会社を子会社化。 平成12年3月 朝日オートリース株式会社を買収。 平成12年10月 センチュリー・オート・リース株式会社が朝日オートリース株式会社を合併。(存続会社 センチュリー・オート・リース株式会社) 平成13年12月 センチュリー・クレジット株式会社の会社分割を行い、自動車ローン部門業務をセンチュリー・オート・リース株式会社に移管。 平成15年9月 東京証券取引所市場第二部に株式を上場。 平成16年9月 東京証券取引所市場第一部銘柄に指定。 平成17年6月 センチュリー・クレジット株式会社を株式会社C-TRY(現・連結子会社)に商号変更し、リファービッシュ事業を開始。 平成17年10月 センチュリー・オート・リース株式会社がエヌ・ティ・ティ・オートリース株式会社と対等合併し、商号を日本カーソリューションズ株式会社(現・持分法適用関連会社)に変更。 平成18年10月 中国でのリース事業展開のため、伊藤忠(中国)集団有限公司との共同出資により中国上海市に盛世利(中国)租賃有限公司(現・連結子会社)を設立し、営業を開始。
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パチュリー12 10スレ目 107 紅魔館の大図書館に住む魔女、パチュリー・ノーレッジ 彼女の仕事に最近、幻想郷の出版物の検閲が追加された。 何故かって? 本人が言うには蔵書に閻魔帳が欲しかったから、だそうな。 そんなわけで紅魔館には一足早く新聞が届く。 「そうか、明日は快晴なのか……。」 隣で楽しそうに閻魔帳をめくるパチェに話を振る。 「せっかくいい天気なんだし、たまには外に出かけてみないか?」 「…………?」 そんなに変な物でも見るようなジト目で見なくてもいいじゃないか。 「晴天は外出の誘引にはならないわ。レミィやフランのような特殊体質なら 雨の日は外に出たくないという意味で曇りを避けるかも知れないけれど、 寧ろ私は肌や髪が荒れるから曇天の方が外出日和ね。」 そういえば前にそんな事言ってた気もするな。 「そうか……解った。図書館だと何時も小悪魔が居るしたまには二人で、と思ったんだが。」 そう言って新聞を戻そうと立ち上がったら、 「あ……。」 袖を掴まれた。 「やっぱり行く。晴れの日はハレの日だから外出日和だ、って本に書いてあったし。」 あっさり前言を翻すとは魔女失格じゃないのか? 「肌や髪が荒れるんじゃなかったのか?」 「いい、魔法で何とかする。」 まあ、本人がそう言っているんだから大丈夫なのだろう。 何はともあれ明日が楽しみだ。 翌朝、予報通り突き抜けるような快晴。 「パチュリー様、無理をなさっては……」 「くどいわ。使い魔なら使い魔らしく主に従いなさい。」 珍しく二人が口論をしている? 「おはよう。」 「あ……おはよう、○○。」 この様子は……昨晩全く寝てないのか? 「○○さんからも言って下さい。こんな状態で外出なんて無茶です。」 小悪魔の言ってる事は正しい気もするが。 「規定値以上の陽光を遮る魔法もかけたし、大丈夫よ。さあ、早く…………」 「パチュリー様! 」 相当無理してたんだろうな……さて、どうしたものか。 「パチュリー様は夜を徹して魔道書の執筆をなさっていて…」 「ん、どんな内容? 」 「耐火、耐水、耐衝撃、耐魔法、耐巫術、耐人形操術……の結界を張る魔法です。」 そりゃまた豪勢な。 「せっかくだし、行くか。」 「パチュリー様はどうするんですか。」 「背負っていく。後、その魔道書も……」 「これをもって行かれるのですか? 」 怪訝そうな顔で小悪魔が取り出した本は優に10000ページはありそうな…… 「圧縮してる時間が無いからと一気に書き上げられてました。」 これを持って行くのはちょっと、辛いかもな。 「私が持って行きます。大丈夫、お邪魔はしませんから。」 そんなわけで、今パチェを背負って山登り(丘登り?)をしている。 規則的な寝息を立てて丸くなってるパチェは以外にも暖かいし、柔らかい。 空は今も変わらず快晴。天高く馬肥ゆる秋、だね。 ふっ、と息を吐いて丘の頂を仰ぎ見る。 小悪魔の話では丘の上に魔道書と飲み物、そしてお弁当が置いてあるそうだ。 道中にも飲み物を置いてもらうべきだったかと少し考えるが、 やはり楽しみは頂上まで取っておくべきだろう。 「ん……」 背中のパチェから小声が漏れる。どうやら目を覚ましたらしい。 「あ……」 降ろしてくれと言うように体を捩る。 そっと降ろして、そして振り返る。 「○○……大変だったでしょ、ごめんね。」 「せっかく誘っいに応じてくれたんだからな……。これくらい大したこと無い。」 「そう……」 呟いて空を仰ぐ。 「……空凄いね。」 「そうだな。」 「風、気持ちいいね。」 「そうだな。」 「二人っきりだね。」 「ああ。」 はにかみながら目を閉じるパチェ。 そっと、その肩を抱いて唇を寄せて…… ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 204 「おいパチュリー、この本借りるぞ」 「ええ・・・」 紅魔館の図書館、俺は主に魔法関連の本をあさっていた パチュリーは紅茶をちびちびと飲みながら本を読んでいる 俺の分の紅茶はとうに冷めていた、冷めても飲めればいいしな 「ねぇ○○・・・」 「ん?どうした?」 本を読みながら目を合わせずに、パチュリーが話しかけてきた 図書館でパチュリーから話しかけてくるのは非常に、珍しい 「明日なんだけど・・・何か予定はあるかしら?」 「明日?・・・・・・悪い、アリスと実験する約束が・・・」 「そ、そう・・・アリスによろしく伝えといてね」 「ああ・・・何かあったか?」 彼女がなぜか、悲しそうに見えたから 「いいえ、気にしないで」 それから会話はなく、俺は借りた本をもって家路を歩いた ~翌日~ 「・・・ちょっと!」 「うぇ!?あ、ああ悪い」 俺は約束通りアリスと実験をしている 「全然集中できてないじゃない!怪我するわよ!」 そうなのだ、前々集中できていない、なぜか寂しそうな彼女の顔が、頭をよぎるのだ 「・・・今日は終わりにしましょう」 「え?いや・・・まだ昼前だぜ?」 「実験は後回しに出来るけどね、ヒトの心は後回しには出来ないのよ」 「え?あ、ああ?」 「何か大切な事があるんじゃないの?今しなきゃいけない事があるんじゃないの?」 「アリス・・・ありがとな!」 それじゃあ、と手を振って彼は走っていってしまった 彼が持って来た実験道具やら本やら、いろんな物を忘れていった 「・・・はぁ、何でいつもこうなんだろう・・・ねぇ上海?」 「パァァァチュゥゥゥウリィィィィィイ!!!げふげふ」 むせながら図書館へ、重いドアを開け放ち、彼女のもとへ 「○○!?え?え?」 「ようパチュリー、待たせたな」 驚き戸惑っているパチュリー、そりゃあそうだ 「え?今日はアリスの」 「今日は切り上げてきた、パチュリーが・・・気になったから」 「あ・・・」 赤くなって俯くパチュリー、まるで少女のように、初心な感じで・・・少女パチュリー略してパチュ子 「それで・・・なんか用が有ったんだろ?ほれほれ、遠慮せずに言ってみろ」 すこし、間をおいて、彼女は言った 「あ、貴方と一緒にいたいな、と思っただけだから・・・きにしない「パチュリー!」 俺はか細い両肩を掴んで、彼女をこちらに振り向かせた 「な、なに?」 「・・・そういうことを言うと・・・勘違いしちまうぜ?・・・勘違いしていいなら、目閉じて」 半分冗談ぐらいで言ったつもりなんだが、パチュリーはゆっくりと目を閉じた、ちょっと上向いて、唇を・・・ 「あー・・・うん、えっと・・・」 とりあえずキスはまだ早い、キスは結婚してからだ、うん とりあえず優しく抱きしめた、やっぱりすごく、細い 「・・・でも抱き心地いいな」 癖になりそうだ 「・・・き、キス、は?」 「んーまた今度な、まぁゆっくり、な?」 ゆっくりゆっくり歩いていけばいい、走る必要は無いのだから そーして最後にキッスでしめるのさー そうだな、帰り際にキスしようか、驚く彼女が目に浮かぶようだ 何かワクワクしてきたぞ! ~終~ ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 463 パ「この本を読んでほしいのよ」 俺「え?俺にですか?」 パ「そう」 渡されたのは一冊の絵本。 俺「…では後で読んでおきます」 パ「違うわ、いま私に読んでほしいのよ」 俺「え?」 パ「いやなの?」 俺「と、とんでもないです!」 パ「お願いね」 パチュリー様の顔からはなにも窺えない、とりあえず椅子に座り本を開く。 俺「では…」 パ「それでは見えないわ」 そう言うとパチュリー様は俺の身体と本のあいだに割り込むように ももの上にちょこんと腰を掛けた。 俺「ち、近いです…」 パ「読んで」 俺「…はい。むかしむかし、あるところのオーロラの先にたくさんの雪だるまが」 逆らえない雰囲気に押され、絵本を読み進める。 俺「さようならなの…だッ!?」 突然パチュリー様が背中に腕を回し、服をきゅっと掴んだ。 そして俺の胸に顔をうずめるようにゆっくりと抱きついた。 俺「あああ、あの…」 パ「…」 俺「…」 パ「…どきどきしているのね」 俺「…はい」 パ「…そう」 下目に少しだけ嬉しそうな顔が見えた。 そのとき遠くから足音が近づいて来るのが聞こえ凍りつく。 俺「パチュリー様!だ、誰か来ましたよ!?離れてください!」 パ「…」 小「パチュリー様ぁ~、なにかお飲みモノッ…!?」 俺「…は、はは」 小「…」 パ「…」 微動だにしないパチュリー様、しがみついたまま… 小悪魔さんは無言でふらふらと立ち去って行く、完全に目が死んでいた。 俺「見られましたね…」 パ「それより」 俺「はい?」 パ「『様』はやめてほしいわ」 俺「そういうわけには」 パ「パチェと」 俺「レミリア様に怒られてしまいます…」 パ「早く」 俺「…パ、パチェ」 パ「聞こえないわ」 俺「パチェ」 パ「そう」 俺「…」 パ「…」 また力強くきゅっと抱きつかれる。 俺「…あ、本の続き読みますね」 パ「いいわ」 俺「そ、そうですか?」 パ「まだ、どきどきしているのね」 俺「うっ、ひきょうですよ…」 パ「そうね」 俺「…」 パ「…なら、あなたも確かめてみて」 俺「え!?」 パ「早く」 俺「…」 パ「早く」 俺「は、はい」 ' , ', ! \ \ ' , _,,.. -‐''"´ ̄`"'' ト、.,_. ,,--,┐ \ ヽ / \ \\ r-、 ァ'´ _ト、.,__ノ ノ `ヽ,ヘ, // / ! < ∠______ ノヾ、rァ' __,ゝ‐i"`y'__]`''ー、' / ` t,// / ! / / \\ `'(__!r-‐i__」-‐'"´,i `''ー、」ー-ヘ、イ'"´.! ||||| / \ (___ \ r‐ァ'´]-‐' '/ ! ハ /!ィ' i `''ー'、/ゝ | ||||| ;t'、 ミ _______ `' 、 ヽ7´ ! !/!メ、!」 レ-rァ''iT7 iヽ」`i´! !!!」 ノ ! i / '´ i´ヽ. | .! ! !-rァ'T '、,_,ノ !__トr┘i 'r'、`'´ ;' \ 、,_____ (`ヽ;、 `ヽr、. └‐'`ゞ、ハ. '、_ノ ⊂⊃ ! ';./ ;'ゝ.,二二7i < ,.-`ヽ i_,!`ヽ、 /| !⊃ r‐-、 /! ! ヽ._」 / ! / ー┼- `ー‐ァ (´__,ノ! | `7! .i'>,、.,__'--‐',..イ! i ̄´ノ! | / ー┼- 'ーri´ヽ_/7 〈 V7「ヽ7i ̄´'ノ ! '.、 ' 、 '、 ;' \ r-iー、 --─ ! | // r-、,ゝ、!__j '; トー'i i ', `ヽ.、' / \ `ー' ' '、ゝ'ン___,,...->ア`ー-'、 ,' i | i i | ヽ. ヽソ`''ー--‐' / --─ァ ヽヽ  ̄ く ./___」_';/ ! | ! ! ! i ,ゝ-‐''ンヽ. く / rソ´`ヽ、`'ァー-‐' ,.イ/ ,' ,' ! ', く_」`7´ハ 〉 '、___ _r'ー--‐''"´ / ;' i i ,ハ ヽ !_/ヽ!__L/ く i // -イ /! ;'/ ム \ \. ├‐ rン_,,.. - / / ;' !レ'´ i `ヽ. < r-iー、 `ト、 ! 〈 i ;' / ,ハ ヽ. 'r、 / `ー' ' ノ.ノ __ ノ i V / / /! '., _r'ヘ / l 7 l 7 i_| V / ハ./ ;' i i '、 }><{ ン´/!/ \ |/ .|/ ヽヽ ∧ / ;' i ', ヽ、 i r'"ン / / o o パ「ひとつ約束してほしいわ」 俺「はい」 パ「毎日わたしに会いに来なさい」 俺「はい」 パ「それとずっと私のそばにいなさい」 俺「はい」 パ「毎日好きだと言いなさい」 俺「はい」 パ「それと絶対に私に逆らってはダメよ」 俺「…はい」 パ「あとは…えーと」 俺「あの、全然一つじゃないんですけど…」 パ「ふふ、そうね」 彼女はとても満足そうに笑った。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 400 「パチュリー様?大丈夫ですか?」 ひゅうひゅうという音、顔色も悪い 「・・・発作が出ておられるようですね・・・白湯をお持ちします」 「だい、じょうぶ・・・すぐ治まるから」 とても大丈夫そうには見えない とりあえず埃の多い図書館よりも部屋の方がよかろう そう判断した俺はとりあえずパチュリー様を移動させる事に 「・・・失礼しますよ」 「えっ!?ちょ、ちょっと」 「大人しくしていてください、発作が悪化します」 「・・・」 俺はパチュリー様を抱えて(そこはもちろんお姫様抱っこで)パチュリー様の部屋へ向かった 「ベットに横になって・・・膝を立てて腹式呼吸を・・・そうです、すぐに白湯をお持ちしますので」 「あり、がと・・・永琳から貰った薬があ、るからすぐにおちつくか、ら」 棚から小瓶を取り出し小さな薄いオレンジ色の錠剤を取り出す しょうがないので白湯を取りに厨房まで行くことにした 「・・・まぁこれぐらいでいいだろ、あんまり熱くてもかなわんからな」 熱いポットとカップをお盆に載せて・・・後は何もなかったかな? 「また発作?」 「あ、メイド長」 はろーと軽く手を振られる、もう夜なんだが・・・ 「この季節になるとどうしても辛いみたいね・・・まぁ辛さはわかりようがないけど」 「・・・とても辛いと思いますよ、あのパチュリー様が弱気になるほどですから」 「へぇ・・・引き止めて悪かったわね、それじゃあ」 コツコツと足音が遠ざかっていった メイド長も心配してるんだな、わざわざこんなところまで 「パチュリー様?」 「○○、ありがと・・・だいぶ良いわ」 「そのようですね・・・今日は早めにお休みください、ここで油断すると悪化しますよ」 顔色もさっきと比べればまぁ良い、呼吸も今は落ち着いている 「・・・ねぇ○○、一緒に寝ましょう?」 「なななな、何をおっしゃてるんですか!?わ、私も一応男ですので・・・」 「○○は喘息の発作で苦しんでいる私相手に欲情できるような人じゃ無いでしょ?それぐらいは知ってるわ」 「いや、しかし・・・」 「夜中に発作が出たらどうするの?アナタの部屋までとてもじゃ無いけど行けないわ、大声も出せないでしょね」 「・・・」 「お願い、あなたがいると安心できるの・・・お願い○○」 「わ、わかりました・・・喜んで」 「ふふ・・・ありがと」 辛そうだが、とてもいい笑顔に見えた 結局ベット脇に毛布に包まって寝た、同じベットで寝るというパチュリー様の提案を却下して そしてその夜、発作が悪化したパチュリー様を抱えて永遠亭まで走ったのだが・・・それはまた別の話 end ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 438 本を読んでいたパチュリーが唐突に口を開いた。 「何かくれなきゃ悪戯するぞー」 「……」 「……」 唖然、とはこういう事を言うのだろう。 俺と小悪魔はかける言葉が見付からない。 黙り込む俺達に、パチュリーは真っ赤な顔で抗議する。 「何か言う事は無いの? 恥ずかしいじゃない」 なんか可愛い……。 パチュリーってこんな事もするんだ。 しかし、いくら今日がハロウィンで素で魔女だからってこれはどうなんだろう? 「可愛いな」 「可愛いですね」 「むしろ悪戯されたいな」 「されたいですね」 言ってにやつく俺と小悪魔に、パチュリーは更に顔を赤くして 「馬鹿! ○○と小悪魔なんてもう知らない!」 そう言って再び本に視線を戻した。 今日も図書館は平和だ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 356 うpろだ818 あなたとみる世界はとてもうつくしくて、あたたかくて、しろくて、とうといのだ。(そう、それはまるで、あなたのように。) 「おっしゃっ出来たぞー!パチェ、ちょ、来い!!」 「・・・はーい(声おおきいわねぇ)」 「遅せぇーぞ!早く来い!パチェ、はやく!」 「わかってるわよ、今行くからっ!」 きゃんきゃんと子犬のように(あんなに大きいのに、子犬。雪にはしゃいでいる、可愛らしい犬ね)大声を上げ続けている○○に叫び返したら、彼の動きが一瞬止まった。 が、すぐまたぶんぶんと腕を振り回しだす。 …こんな寒いのに、元気なこと。 久しぶりの外は冬景色で、私はただ歩くだけで凍て付くような冷たい風に変わる外気に震えながら、首までずり落ちていたマフラーを引っ張って鼻先まで上げた。 まだ少し距離が遠くてきちんと表情は見えないけど、たぶん彼はにこにこ笑ってるんだろうと思う。 真っ黒のロングコートには、ところどころ雪がくっついている。 キラキラと光を放ちながら、さらさらと溶け出すそれは、私が前に○○にあげたマフラーくらいに真っ白だった。 編み物なんて知識はあってもした事はなかったから全然上手に出来なくて、自分で見ても歪だったから、つけなくてもいいと言ったのに。 つけないどころか、洗濯しないの?って聞いても絶対にマフラーを手放さない彼の姿をふと思い出して、少し苦笑した。 苦笑と言っても苦しいから笑ったわけじゃなくて、幸福だから漏れた笑い。 私は自分の笑った顔がそんなに気に入ってなかったけれど、この時の顔だけはなかなかいいんじゃないかと自惚れている。 だって、○○もこんな顔でよく笑っているのだ。 (幸福そうな、幸福そうな。私よりも、もっと綺麗で、純粋で、あたたかいけれど) 「なに、どうしたの」 「見せたいものがある」 「見せたいもの?」 「おう!」 ぜってぇ驚くぞ!!○○がけたけたと大声で笑う。 色白の頬は赤く染まっていて、真っ白な景色に柔らかく色をつける。 夏の激しさが嘘だったように、優しく降りそそぐ太陽の光を浴びた黒髪は、輝きを失うことなく揺れていた。 伸ばされた手は厚い手袋に包まれていて私の一番好きな手のひらとは少し違う様子だったけど、握ってしまえばいつもと変わりが無い。 大きくて、心地の良い温度。 絡めた指先は○○の手袋と私の手袋とに阻まれてごわごわしていたけど、いつもより強い力が加わっていたので悪くない、と思った。 葉を落とした茶色い木の枝に乗っかる冷たそうな塊。 歩くたびに響く、かき氷にスプーンを突っ込んだときみたいな、ざくざくという音を聞きながら、ふたり並んで歩く。 ○○は上機嫌に鼻歌を歌っていて、私はそれを黙って聞いた。 聞いたことないから、たぶん外の世界の歌だと思う。 今真面目に聞いて、覚えて。後で歌って驚かせてやろう。 そう思って内心ほくそ笑んでいたら、○○が唐突に「あ」と言った。 「どうかしたの?」 「あのな、・・・パチェ」 「何、○ま る、って最後まで言い切る前に、抱きしめられて押し倒された。(ええええええええ!?) ぼふんって音がして、雪が私たちの周りをもう一度舞った。 空を見上げたら青くて眩しくて、視界の端に貴方が見えた。 髪の毛を通り越して頭皮とか首周りとか、きちんと皮膚の部分に触れた雪は、私の体温で少しずつ溶けて水になる。 長いスカートから出ていた足の下の雪は直接当たって、冷たかった。 まだ熱を持っているのは、○○に握られたままの指先だけ。 倒れる前に微かに見えた、雪上に引かれた下手なラインは、確かに相合傘のかたちで。 (見せたかったものは、これか)(ああどうしよう、なんて、なんて。) 「なにするのよ○○」 「相合傘、作ったんだ。線引いて」 「だから?」 「俺とパチェがその上に乗ったら、完成するだろ。これ」 ぎゅうと手を握る力がもっと強くなる。 上半身だけ起こしてみたら、相合傘の形の上の私と○○。 どこの漫画よ、と思わず笑ってしまいそうな光景だけど、とろけそうな顔で微笑んでいる、○○の優しい視線に笑うことも出来なくなる。 うそ、こんなに嬉しいなんて。 どきどきと早く動きだす私の心臓は、私と同じくらい愚かだ。そして恋をしている。 頭にハートの形のついた、同じ傘の下にいる彼に。 服はじわりと水を吸ってきていたけど、もう気にならなかった。 「すげーだろ」 「うん すごい」 「驚いた?」 「ええ とっても」 「・・・ほんとにそう思ってんの?」 思ってるわよ。本当かよ。思ってるって。いやでもパチェ、 まだ何か言おうとする○○のマフラーを掴んで引っ張って、そのまま頬にキスをしたら、彼の頬は私の唇が冷たかったせいでない(と思うのは自惚れじゃない?)赤に染まる。 もうコートにくっついているどころか、乗っかってしまっている雪を掃ってやりながら、私は笑った。 そうそれは貴方と同じ幸福そうなあの笑顔。 赤い頬のまま笑いあう私たちは、つめたくてあたたかい雪の中で、本当に相合傘の一部になってしまったよう。 「パチェ」 「なに、○○」 「俺たちもうこれで永遠だと思わない?」 「相合傘に守られてるから?」 「・・・パチェがこんなに傍にいるから」 どこの漫画よ、笑う前に騒ぎ出す私の心臓をさらに騒がせるのは、頬だけにじゃない貴方のくちづけ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 12スレ目 643 うpろだ863 ――それじゃ、また。 そう言って彼は帰っていった。あとに残されたのは静けさが支配する本の寝所。 気のせいか彼がいなくなったことで温度が少しだけ下がったような気がする。 だから、だろうか。 私は読んでいた本から顔をあげ、席を立った。そして、さっきまで彼が使っていた椅子に意味もなく座ってみる。 ……あったかい。 あ、やっぱりダメだ。頬がにやけてしまうのが押さえられない。こんなところ誰かに見られでもしたら余裕で死ねる。死因はきっと喘息の発作。 ほんとうに、私はいつからこんなになってしまったのだろう。魔女である私が、たかだか人間ひとりの事でこんなにも心を揺さぶられるなんて。 彼こと○○との出会いに特筆すべきことは何も無い。 命を救われたとか、殺されかかったとか。そんなことは一切無い、ごくごくありふれた出会いだった。 ……まああれを“ありふれた”で片付けてしまう自分の思考にすこしばかり危機感を覚えるのだけれど。 ○○は魔理沙に連れられてやってきた。例によって例のごとく魔道書を強奪しにこの図書館に来たときに。 魔理沙は「私はここらで一番大きい図書館を紹介しにきただけだぜ」と言っていたが結局何冊か持って帰ったのだから同じことだ。 もってかないでって言ってるのに、もう。 と、それで○○のことだけど。 魔理沙曰く、○○は“外”の人間らしい。服装からしてなんとなくそんな気はしていたのでさほど驚くことではなかったが、自分の目で外の人間を見たのはこれが初めてだったので少しだけ興味は湧いた。 彼は幻想郷に迷い込んだものの、こちらの世界が気に入ったらしくこっちで永住することに決めてしまったらしい。 ○○自身のことは魔理沙も詳しくは知らないそうだが、その事で話をしにいった先の霊夢も「まあ、それならそれでいいんじゃない」とあっさりOKを出してしまい、今では神社近くの里で暮らしているらしい。 こうしてめでたく幻想郷の住人と化した○○だが、しばらくして魔理沙に「どっか図書館とかないのか? 最近暇なんだ」と漏らしたらしい。 ……あとはもう想像に難くない。 実験の手伝いとその期間の食事の世話という対価を要求した魔理沙が、○○をこのヴワル魔法図書館につれてきたというわけだ。 本を折らない曲げない汚さない破らないもとの場所にちゃんと戻す貸し出し禁止。 以上のことを守るならば好きに読んで構わないと私は許可を出した。その時○○は「それは普通じゃないのか?」と言っていた。 ……○○、それを守れない輩が約一名いるのよ。具体的にはあなたをここに連れてきた張本人が。 それを言うと彼は苦笑していた。 それから○○はここに通うようになった。 とはいえ里での仕事もあるのだろう、毎日という訳ではなかったがそれなりによく通ってきていたと思う。 門番とレミィには話を通しておいたので問題ないのはわかっていたが、紅魔館まではどうやってきていたのだろうと思って以前気まぐれに聞いてみると魔理沙がいるときは魔理沙に頼んでつれてきてもらっていたらしい。 もちろん対価は要求されたそうで。魔理沙がどうしても都合が付かない時は霊夢に護符もらって走って駆け抜けているとのことだった。 ともあれ。 ○○はここにいる間は無駄に話かけてもこなかったし、ほとんど無言のまま本をひたすら読み漁っていたので悪い印象は抱かなかった。 本の扱いも丁寧だし、彼がここに来るようになってから最初は小悪魔以外の誰かがいるというのは違和感があったけどそれもすぐに消えて言った。 ――だから、私の中での○○の在り方が大きく変わったのはそんなある日のこと。 その日は何故か○○は魔道書とにらめっこしていた。 いつもとは違い、隣にいた小悪魔に何度も質問しつつ眉間に皺をよせながら少しずつ読み進めていた。 そんな○○と小悪魔の様子がたまたま目端に入って、少しだけ私も興味をそそられて覗いてみたんだった。 本そのものはなんのことはない、初心者向けの魔道書だった。理論も簡単なものしかのっていない。 きっとそれすら読めないのだから○○は魔道の才能はないのだろうなあと思い、けどそれでも必死になんとか理解しようとしている○○を見て興が乗ってその本に載っている指先に小さな灯りを燈す魔法を目の前でやってみせた。 ……その時浮かべた○○の表情を私はいまでも忘れられない。 ○○はそれを、まるで子供のように目を輝かせてみていた。 人間からすればどうということのない事なのかもしれない。些事なのだろう。でも、それでも。 永き時を生きてきた者からして見れば彼の浮かべた表情は胸をつくような、締め付けつけるようなものだったのだ。 少なくとも私はそう感じていた。 その後、彼は当然のように私に教えを請い、私もそれを承諾した。そういえば小悪魔がやけに驚いていたっけ。 普段の私をよく知っているのだからその反応も当然といえた。……だって他ならない私自身が承諾してしまったことに驚いていたんだから。 そして私は○○に魔法を、とりあえずあの指先に灯りを燈す魔法を教えることになったのだが。 なんというか。教え子として○○はどうみても落第だった。 はっきり言うと才能の「さ」の字もなければ、資質の「し」の字も無い有様だった。 それでも引き受けたからにはこのままでは魔女の名が廃る。 様々な手を尽くして、もうこれ以上どうしようも無いというところまでやって、二年という歳月を消費してようやく――彼は灯りを燈す程度の魔法を使えるようになったのだった。 あの時の妙な達成感は思わず小悪魔と手を取り合うぐらいに大きいものだった。 そんな私の側に○○が寄ってきた。まだ魔法を使えたという興奮が冷め遣らないのだろう目にはあの時の輝きが宿っていた。 そして私と目をあわせるなり、本当に嬉しそうな声で○○は言った。 『ありがとう。パチュリー』 ……――ああ、私のバカ。 ○○に魔法の才能がないなんてどうして思ったんだろう。 そんなわけないじゃない。だって彼はずっと前から魔法を使っていたんだから。 私がそれに気付かなかっただけ。そして気付かぬまま彼の魔法にかかってしまっていただけなのに。 この胸に宿る熱が、鼓動が、ふとしたときに○○を追うようになっていた視線が、その証。 自覚してしまえばもう止められない。人間と妖怪という避けて通れない壁もあるけれど、今はとりあえず保留にしよう。 だって。私、パチュリー・ノーレッジは 間違いなく、○○に恋してるのだから。 「はあ……」 ○○の遺した熱を感じながら私はまた彼のことを考えてしまっていたようだ。 最近はいつもこうだ。おかげで○○がいるときも、いないときも読書に身が入らない。 ○○のことを考えるだけで胸が熱くなる。 ○○のことを思うだけで胸が痛む。 ○○のことを見つめるだけで胸が張り裂けそうになる。 ほんとうに、重症だ。でも、それが別にいやじゃないと感じてるのだから困ったものだと思う。 ふと視線をやると、その先にあった暦はもうすぐ如月を指そうとしていた。 ……そういえば。○○が毎年外の世界では如月の月になると――。 「小悪魔、いる?」 「はい? どうかなさいましたかパチュリー様」 「探してほしい本があるの。外の行事について詳しく載っている本を持ってきてちょうだい」 「はい。その行事について名前とかわかりますか? わかればそれだけみつけやすくなりますけど」 「そうね……確か『バレンタインデー』だったかしら?」 私がこんな風に、貴方無しではいられなくなってしまったのは全部○○の所為。 だからちゃんと責任をとって? ――貴方がかけた、恋の魔法の。 ───────────────────────────────────────────────────────────